小熊座 2025 高野ムツオ  (小熊座掲載中)
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2025年12月露の原 高野 ムツオ

朝顔の蔓が銀河に触れている
猫じやらし釣られて穭草揺れる
秋風に乗り損ねたる甲斐性なし
浮塵子湧けよ蝗は跳べよ豊の秋
目鼻耳みな動かして柿を喰う
羽衣を広げ落蟬またひとつ
角生えて来るまで桃の種舐る
腹中に白桃一個死後のごとし
尺取が尺取るたびに昼深む
肋骨ありて弾むや露の原

2025年11月産声 高野 ムツオ

砂利道に出でし筍貴種流離
シャッターは自ら開かず巴里祭
己が聞きし己が産声梅雨夕焼
漂泊の途中灼けたる石ころも
炎天より言葉以前の蝶ひらり
昭和以後俳句衰えかき氷
越えるべき峠は無数かき氷
捨てられし蝙蝠傘へ蟬の声
歩み出す直前の揺れ大夏木

2025年10月蚯蚓 高野 ムツオ

土食つて生き薔薇色に蚯蚓死す
頽齢の肋に薔薇が絡まりぬ
黒羽
鮎焼けば虹が懸かりぬ鮎の国
蠅取リボン息の絶えたる魚の上
狼のかの呼吸音油照
盗蜜の八十年のこの暑さ
スマホ燈る戦場の葛這つて来て
万緑の蟻一匹にして巨大
万緑を吸つて万緑私す
万緑や詩には老残老死なし

2025年9月寝息 高野 ムツオ

ソーダ水噴き出す昭和百年目
昭和百年巣燕に夕日差す
昭和史に冤霊史あり夏の雨
昔見し臍の緒梅雨の川となる
梅雨の川歓喜の渦を幾重にも
青梅雨の冷凍室の深海魚
頸に蛍火うつらうつらと聖老女
螢火が滅びし山河映し出す
峯雲立つ雑魚寝家族の寝息より
戦後よ続け峯雲沖に立つ限り

2025年8月夏燕 高野 ムツオ

蝦夷乙女枯蘆諸手開きにす
睫毛まで雪の結晶荒蝦夷
俘虜の裔そのまた裔や雪の精
昭和百年被虐千年沼氷る
大鳥となり踏み出せり雪の原
雪夜白鳥あれはじやわめく炎なり
羽開くとき白鳥は咒の象
白鳥は環状列石夜も凍てず

2025年7月青葉木菟 高野 ムツオ

地吹雪や地に立つものはみな鋼
浮氷触れんとすれば動き出す
電線を走る電流鳥帰る
燕来る電柱傾ぎ川奏で
おーいと雲はいと自転車夏に入る
非暴力主義浮雲も蠅の子も
青葉木菟川はきらめき返すなり
東京は蟻の巣蟻より人多し
一匹となり炎天を歩き出す

2025年6月街燈 高野 ムツオ

顔はついに映らず冬の水
空爆映像消せば鳴き出す冬の虫
街燈は冥府の燈白鳥に
白鳥鳴く街と化したる蘆原に
羽毛すぐ出たがるダウンコートかな
九万秒足らずの一日鼓草
朧夜を燃料デブリのごとく坐す
春嶺がここまで来いと胸叩く
恋の道ならざるはなし蜷の道

2025年5月冬の鳩 高野 ムツオ

雪嶺に紅の襞きつとある
太陽の音聞いており冬の蝿
龍角散飲めば白鳥また鳴くよ
白鳥は抱けぬけれど羽ひらく
冬晴や鳩の心音聞こえそう
冬日ほど熱きものなし野に立てり
蛇口開栓厳禁冬の鳩以外
炉火に炙る戦争知らぬ脛二本
雛壇のうしろ仏壇夕日さす

2025年4月雀一群 高野 ムツオ

目鼻口耳も山河や初山河
銀杏落葉月へ帰れと月上る
えいやつと声を掛ければ銀杏降る
残雪踏めば雀一群噴出す
墓だけが村の証か木の根明く
反故が羽開く音して雪月夜
冬麗や闇はスマホに閉じ込めて
缶コーヒーごくり冬銀河がぶり
春泥をミッキーマウス歩きにて

2025年3月初霞 高野 ムツオ

雀にもタイヤにもあり去年今年
偉大なる国でなけれど初霞
みちのくは異形尊し芋頭
国なくて滅びし民の福寿草
初夢は俘囚にもあり尿太し
刻まれし神亀元年ただ寒し
百寿の母御慶の我にそつぽ向き
雀には雀の秘仏寒日和
ラーメンの湯気成人の日の終り
白魚の目のまん丸や箸の先

2025年2月換気扇 高野 ムツオ

また回り出す年越の換気扇
無辺へと千手を垂らし菊枯れる
不立文字風に渦巻く落葉こそ
われら昔星雲なりき息白く
天の狼咆哮雪が降り出せり
財宝の如く雪積み小鳥の巣
多賀城に白鳥の声月の声
猥本にさつそく来たり冬の蝿
冬の蝿昨日の朝日今日も浴び

2025年1月銀杏金葉 高野 ムツオ

銀杏翁鬼にならんと黄葉せり
銀杏翁悪鬼を踏んで黄葉せり
銀杏翁伐られ全霊黄葉せり
人類絶滅その日も銀杏黄葉せり
どこからか手平鉦音銀杏散る
金色の小鳥も交じり銀杏散る
えいやつと声を掛ければ銀杏降る
銀杏降るとうとうたらりたらりら
銀杏金葉一気に散らし不服従
イーハートブ永遠に化外や銀杏降る

   
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