小 熊 座 2022  高野ムツオ  (小熊座掲載中)
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     2022年 11月   豆の飯   高 野 ムツオ


    バスタオル夢想す春夜ハンガーに

    音楽室より一筋の春の川

    水分は雲上にあり蕗の薹

    燕の糞天恩として首筋に

    万朶とは万死にあらず夜の桜

    笛太鼓鉦も水子や花筏

    雀の鉄砲桜の大軍なら許す

    また孩児立つ向日葵の種蒔に

    詩想とは夜の代田に宿る雲

    遺品とす津波の川の蘆の角

    林檎の切株へ林檎の花が散る

    マスクするなんてと若葉風が過ぐ

    夏風邪を土産に東京駅を発つ

    若竹となるまで首を撓らせる

    何処へ行くのかと青梅転がり来

    引き込まれないよう注意万緑は

    梅雨の夜の鴉の眼その光

    梅雨鴉翼ひらけば捨聖

    豆の飯豆の光に噎せながら

    乗り難し夕焼雲と母の膝



     2022年 10月   初 蝶   高 野 ムツオ


    朝粥にまで白鳥の川の綺羅

    手術待つことも老楽梅の花

    手術衣を産衣としたり梅日和

    手術台の仰臥の上を春の雲

    初蝶や見えない闇を喰い破り

    死すとも可春の銀河を誤嚥して

    三春素麺扇開きに地震の闇

    春日宙嬉嬉とこの世の埃たち

    黐の春落葉を肩に癌患者

    春雷の転げて弾む痩肋



     2022年 9月   寒 雀   高 野 ムツオ


    映像の癌美しや寒燈

    癌が喉を侵襲中ぞ寒の雨

    大寒のヒマラヤ杉が夢に舞う

    夕凍や非常階段だらけの街

    終点のなき鈍行で冬日まで

    冬青空一角切つて胸に貼る

    雪しまきいつたん止みぬ鬼房忌

    はにかめる風花なれば心中す

    冬眠のなき鳥類へ星が降る

    筋骨が弾け飛び出す寒雀



     2022年 8月   梅雨鯰   高 野 ムツオ


    鬣と尻尾生えそう雪解風

    枕カバー抜け出す春の夜の枕

    春宵にポケットありてマスク出る

    春暮の森手足が生えて動き出す

    靴先よりまた大空へ花吹雪

    杉山の奥も杉山義経忌

    山霊に呼ばれ山翡翠一直線

    葛の葉が家を呑み込むこれも愛

    夏痩せの夢から抜けし足二本

    鬚をもてイデアを語る梅雨鯰



     2022年 7月   首の骨   高 野 ムツオ



    一日の麦の芽の丈匂い立つ

    寒星やすべて我らに委ねよと

    何度も首廻せど鶴になれぬなり

    眠る時なぜ見えるのか寒雀

    鳶止まる寒の夕日の真ん中に

    寒を生く南部煎餅歯で割つて

    鼻擤んで目脂拭き見よ雪の嶺

    音楽室夜見にもありて春の川

    首の骨鳴らせば桜蘂が降る




     2022年 6月   鬼剣舞   高 野 ムツオ


    まぼろしのすすきが揺れる聖塚

    鬼剣舞扇合わせて祖霊呼ぶ

    まだ動く気配なき森ハロウィン

    手平鉦雪も浮かれて降り出せり

    凍天まで南部煎餅割れし音

    冬青空行なり扉すぐ閉まる

    金剛杵手に手に雪解水踊る

    岩崎の斑雪を踏めば我も鬼




     2022年 5月   夜の炎   高 野 ムツオ


    自らの水脈白鳥は振り向かず

    白鳥の水脈人の世を祓いゆく

    白鳥には何処も太古雪の暮

    白鳥の水搔思え眠るとき

    白鳥は極北の鳥夜の炎

    白鳥の黒眼に如かず我が欣求

    空飛ぶため白鳥蘆の根を囓る

    白鳥引く首抜けるまで首伸ばし

    夜空飛ぶ時は汽罐車白鳥引く



     2022年 4月   穢土の雨   高 野 ムツオ



    穢土の雨着きしばかりの白鳥に

    枯蘆と白鳥一穢なき同士

    街灯に曝され白鳥一家族

    妻を呼ぶ白鳥の声黄泉の国

    白鳥の心臓の音星を生む

    白鳥の声ぺしゃんこの空缶へ

    白鳥眠る日輪滅ぶ音の中

    白鳥の氷れる声が打擲す

    白鳥が飛べばハンガー揺れ出せり

    永劫の疫病白鳥鳴き止まず




     2022年 3月   さくら蝦   高 野 ムツオ


    渋滞の尾燈なれども聖夜の燈

    金華山鯨のごとく波間より

    妙音が出そう湯冷の痩肋

    畳より柱へ上る冬日差

    ゴミ箱の海老の尻尾へ天の雪

    爪切れば死後へ飛ぶなり寒燈

    雄勝法印神楽海鳴り背にし

    兜太忌の谷間朝日子あふれ出す

    赤黄男忌の汐入川に雲の鰭

    山の闇背負いてさくら蝦抓む



     2022年 2月   朝日の音   高 野 ムツオ



    
死人花その鱗茎と冬を越す

    時雨忌や詩にもウイルスあるべかり

    冬林檎囓る朝日の音を立て

    歳晩の潮や疼くまで匂う

    いつのまに整列したり除夜の杉

    ちんぽこと一緒に除夜の湯に浮かぶ

    白河以北一山百文注連飾る

    大川小遺構初日に軋み出す

    初夢や頭蓋をあふれ無辺へと

    九十を越えて妙齢年酒酌む




     2022年 1月   猟師町    高 野 ムツオ


    冬青空毛細血管巡らせて

    海の底にても引き摺れ千歳飴

    ワセリンを塗つたのは誰冬の星

    かの世より冬木の桜腕延ばす

      
卑弥呼句会
    年忘れ津波を見たる顔ばかり

    津波の記憶ありて瞬く冬燈

    年を守る漁師消えたる漁師町

    白鳥一声歳神様を招来す

    白鳥の血潮に応え夜の雪

    眠らんとすれば白鳥またも呼ぶ

    凍土に噴火しており牛の糞





   
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