小 熊 座 2023/3   №454  特別作品
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     2023/3    №454   特別作品



      霜の切株        山 田 桃 晃


    囲い菜を藁もてくくる頰かむり

    畝高く盛られて葱の囲はるる

    銀杏を焼く人ならむかがめるは

    湯の神のしづもり給ひ冬紅葉

    山門に銭亀売られ翁の忌

    潮の香のかすか臥龍梅枯るる

    子佛の朱椀が二つ枯るる崖

    枯菊を焚きて海坂煙ぶらする

    大綿や牡蠣殻山に日が沈む

    鳶の笛凍て空重くのしかかる

    暈を被し寒日輪や鳶の笛

    枯草の茎はすかひに日の当る

    牡蠣剝きの子守少年無口なり

    子と婆の唄に灯が入る牡蠣剝き場

    青鮫の尾鰭が乾く夜の櫓

    鮫の鰭干されし櫓しばれ星

    それなりに生きる霜夜の窓隔て

    手のひらを歩むか飛ぶか雪ばんば

    なんだかんだあった勤労感謝の日

    霜の切株愚直の斧が生きゐる



      来し方        冨 所 大 輔


    死ぬ時の力使って初詣

    捻花の捩れ損ねし奴もおり

    一人居の喉に流す冷し麺

    曼珠沙華ひたすらに燃ゆ戦跡

    犬猫人それなりに秋彼岸

    山粧う余生はつづく死ぬるまで

    太陽を雲上に置く初御空

    切株に年月春の鳶が舞う

    コロナ死者減ったり増えたり四月尽

    田植唄うたわず機械植えてゆく

    今朝も無事色とりどりの日日草

    青田原在来線の暇な昼

    ぐるぐる回る梅雨の夜中の洗濯機

    妻すでに土になりたり山の百合

    冷房の十畳一間一人占め

    胃袋に焼き茄子一つ敗戦忌

    生きるとは切なきものよ盆用意

    稲の香を吹き出す温風乾燥機

    花薄に取り囲まれる閻魔堂

    生まれ来て尾花の風に一人逝く



      一巡り        棟 方 礼 子


    冬構空と相談してをりぬ

    吹雪にも息継ぐことのありにけり

    臼に水たっぷり吸はせ冬ぬくし

    ぐるぐるとマフラーを巻き寡黙なる

    葛湯飲む今さら効いてくる言葉

    待つ人も待たせる人も息白し

    ダイアモンドダスト言葉は重かりき

    続き間の戸を開け放ち去年今年

    長靴に灯の映りたる大晦日

    淑気満つ箸割る音の重なりて

    雪の香のすつくと立ちし初御空

    鏡餅周りを猫が一巡り

    御籤引く小脇に手袋はさみつつ

    人混みの波にもまれし破魔矢かな

    一列に並んでをりぬ初雀

    脱皮のごとロングブーツを脱いでをり

    本の帯掛け直したる二日かな

    すやすやと雪の眠れる冬燈

    寒の水蛇口きゆつと鳴きにけり

    どんどの煙鎮守の森へ還りゆく



        窓        菅 原 はなめ


    風邪ひいて身体薄きに気づきたり

    小文字のI大文字のIクリスマス

    冬の朝自分のための火を消して

    湯冷めして櫂はどこかに置いてきた

    口実を考えてゐる炬燵かな

    雪催手の甲汚すアイシャドウ

    団地A棟にそれぞれ冬籠もる

    寒雀立体駐車場に空

    運転席より投げらるる毛布かな

    待合室外套を抱きしめる

    また詩を忘れてしまう帰り花

    人間を死してから見る鯨かな

    春近し地下にはスープ専門店

    咳くや筆談可能運転手

    葱持ってエレベーターを落ちてゆく

    冬ぬくしデスクトップに窓開き

    闇鍋の一部になっている身体

    セーター干す肩の力を抜くように

    電気毛布の血管の太きこと

    影と影ずれ始めたり冬の月





 
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