小 熊 座 2022/6   №445  特別作品
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     2022/6    №445   特別作品



        標題 聖五月         小 野   豊


    聖五月生きとし生けるものに神

    聖五月焼きたてパンに長き列

    帰らざる日々新緑の木霊かな

    草笛をつひに吹けざり進学路

    神棚が海境を向く夏座敷

    不揃いの丼漁家の夏料理

    曾祖母のかすかな記憶沖膾

    祖父の声父の声あり夏怒濤

    堤防に声なき声や夏霞

    プリントの直線歪み梅雨に入る

    断層が断層を生み走り梅雨

    汚染水処理水となる緑夜かな

    売れ残る雛は何処へ夜店果つ

    十薬や心臓に毛を生やしたし

    白昼夢覚めて生まるる黒揚羽

    黒揚羽仮想現実世界より

    蜘蛛の糸我は犍陀多にもなれず

    廃墟みな人間のもの夕焼ける

    夏寒し戦地は竦むほど寒し

    我もまた宇宙の欠片夏北斗



        黒土地帯          坂 下 遊 馬


    蛇穴を出づ戦端は草かげに

    戦場は女の顔か男の顔か

    青鮫がひしめいてゐる黒土地帯

    囀りや黒土地帯の爆撃音

    装甲車の列なる黒土鳥交る

    戦場の黒猫春の泥の中

    黒猫の戦場にをり春の泥

    向日葵やチェルノブイリのゾウの足

    春の修羅チェルノブイリの石棺朽つ

    ウクライナてふ産土赤い森のあり

    春疾風プラパガンダの國のあり

    戦争や山椒魚の口の中

    本棚のうらがわにあり核戦争

    戦争てふ条理はありや残る鴨

    戦争は忽然と来る花万朶

    白鳥の声に戦端の開かれる

    花万朶茶色い戦争ありました

    十死零生たんぽぽの絮飛ばしけり

    山桜いま戦前と確信す

    春の鳶古代の空をひらきたり






 
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