小 熊 座 2022/2   №441  特別作品
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     2022/2    №441   特別作品


        冬 蝶         永 野 シ ン


    メタセコイヤは冬木となりて明日を待つ

    裸木に貼りついて居る陽の匂い

    山の端の沼を自在に鴨の水脈

    冬蝶となりて巡りぬ高蔵寺

    老杉に迎えられたる雪ばんば

    枯蓮の色深まりて風を生む

    満天星紅葉何故胸を締めつける

    いつ来ても廻らぬ水車冬木の芽

    流れたき形のままに滝凍る

    山茶花の詩片となりて散る夕べ

    極月の美しき西空阿弥陀堂

    白鳥の川を挟みて夜汽車の灯

    水音や寺領一足先に春

    思うほど動かぬ手足冬菫

    午後よりはしぐれて来るか朱唇仏

    堂々と己をさらす枯れ芭蕉

    うしろには暮色の雲や返り花

    極楽の色は何色下萌ゆる

    焼却炉の煙まっ直ぐ大枯野

    捗らぬ遺品の整理十二月



        雪の山         中 鉢 陽 子


    冬鳥を窓越しにして朝カレー

    おたまやの杉のてっぺん深雪晴

    軒低き漢方薬屋冬灯

    霙るるや母の形見の古鏡

    影生まれ出す短日の庭の畝

    換気して座り直せり冬座敷

    冬すみれ裏参道の日溜りに

    熱の日の祖母の葛湯の色今も

    星を縫う夜間飛行や冬初め

    バッハ聴く銀杏落葉の街角で

    葉牡丹の庭入浴車来ておりぬ

    塗り椀でもてなされたる冬至粥

    着ぶくれて流行り病を案じ合う

    冬蜂やお手玉作りの針止まる

    蜜柑一滴目覚めし母の口びるに

    竹小篭に山のみやげの寒卵

    復興の新海苔届く浜風も

    隙間風ひとりぼっちの鬼が泣く

    牛乳も弁当も手もストーブに

    恋文は縦書がよし雪の山



        防潮堤         田 村 慶 子


    鼻先に防潮堤や冬の蝶

    浮桟橋も記憶も揺れて冬景色

    島影は花魁島か冬かもめ

    逆風願いし島の遊女の落葉道

    身代りの縛り地蔵や木の葉雨

    冬木の芽呼び止めたるは島の猫

    牡蠣殻の牡蠣殻山になる途中

    寒潮や市営汽船の窓ガラス

    いざ行かん枯葦原を万歩まで

    冬ざるる化粧地蔵の紅の色

    スニーカーも枯野色なり大枯野

    枯葦原我が身消え入る心地かな

    冬波と波消しブロック暮迫る

    凩や集落も消え人も消え

    ずっしりとリュックに冬日さしにけり

    波音とみかんの皮を剝く音と

    凍空とすかすかの松林かな

    野仏に会いたいけれど冬の海

    復興のコンクリートの寒さかな

    冬雲や光る轍の水溜り





 
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