小 熊 座 2021/7   №434  特別作品
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      2021/7    №434   特別作品



        四季点描         水 戸 勇 喜


    料峭や朝練の呼気心地よし

    城壁は野面積みなり花辛夷

    如何みても欲求不満の春満月

    畦道にコロナは住まず花吹雪

    面影に立つ未帰還の父おぼろ

    マスクなど有らずもがなの春田打

    有耶無耶の廃炉のゆくへ青葉騒

    五月闇貨車の音だけ突っ走る

    夏雲や荒れるに任す休耕地

    花茨疎まれてゐて香ばしき

    和魂とは御主のことぞ額の花

    みちのくの空粧ふなら熟柿色

    こんな夜は読書にかぎる月の雨

    濁酒やみちのくの夜は更け易し

    秋風を塗り潰すならどんな色

    梟のくぐもり闇を重たくす

    若しかして母かも知れぬ雪女

    寒の水五臓六腑をひた走る

    「黙食」の新語弾みぬ初御空

    恙なき豊齢会や福寿草



        新茶飲む         志 摩 陽 子


    陽も風もほどよき半島夏に入る

    葉桜や前に後ろに下校の児

    コロナ禍に負けず詠へと青葉木莵

    青葉木莵早寝の夫の寝息洩れ

    初夏の空の青さの水鏡

    ひとところ揺れる里山竹の秋

    歳重ね句歴を重ね新茶飲む

    下校児の駆けゆく先に麦熟るる

    コロナマスクの人の流れに緑さす

    若楓音なき風に陽をこぼす

    音を入れる鶯人は家居守る

    青嵐三時の紅茶濃く入れて

    風薫る窓辺に積みし愛読書

    家居続きの庭に次々夏の蝶

    飽かず来る夏蝶飽かず見て過ごす

    天地返しの庭畑たたく走り梅雨

    茄子ピーマン獅子唐植えて夫昼寝

    ギヤマンのグラスに注ぐ里の酒

    稿を練る窓辺に朝の風涼し

    梅雨蝶の風の唸りに流さるる



        空深く         松 岡 百 恵


    ぽつてりとポストの赤し寒日和

    銀杏落葉風の子の依代に

    雪霏々と余白の広き文字を書く

    枯野のボール土塊になる途中

    御守に銀糸のほつれ冬の虹

    寒明や壁の向ふに子は寝て

    白梅や石並べれば光りだす

    合格を報せる画面木の芽風

    深海なる鯨は陸処かひやぐら

    切株に三月の空深くなり

    滑らかに椅子の古びて桃の花

    花曇り校歌マスクを通過して

    桜蕊残る小暗き空なれば

    唇にマスクの触れて鳥の恋

    門といふ陰をくぐりて著莪の花

    新緑や語らふ声の風にのり

    未生の子五月の森を奏でをり

    青嵐万の音立て生きるなり

    我思ふ故に我あり蟻の列

    青芝や半円の柵錆びてをり





 
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