小 熊 座 2020/6   №421  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る













      2020/6    №421   特別作品



        便りに感謝       𠮷 野 秀 彦


    山吹黄金誌友の顔を想うとき

    北国の菜の花可とも優なるとも

    霾やいのち維持する句が欲しい

    安達太良の消えぬ兎よ文直す

    春雨や奥州きく屋のリンゴサンド

    作句の時間ウイルス除けの蟄居

    家風の吹くか遍路の太龍寺

    春北風潮の香ほのか汝が句評

    槌音の近く遠くに春驟雨

    霊山の桜甦るごと文篤し

    いまを吹く春風何色鳴瀬川

    歩け歩け福の島まで木偶の坊

    震災水害疫病乗り越え青き踏む

    花月夜猫の耳にも外出自粛

    喉仏はあるが銭なき昭和の日

    いつか会う人か俳誌に花の詩

    点字本になりし句集や竹の秋

    鹽竈の漢字は苦手花は葉に

    頁の角折れば牡丹の香ゆらぐ

    覚えられぬこと生まれつきらし薔薇が好き



        眼の数         及 川 真梨子


    わたくしと冬木とおなじものである

    冬空を摑む形に梢あり

    砂時計の砂の数ほど春の星

    春眠し角の凹んだ国語辞典

    遠く菜の花貨物列車は錆こらえ

    閉め損ねた抽斗の中に春日

    悔恨の波寄すように吊し雛

    屋上の人影または春の塵

    現在地はくるくる回り東京は木の芽

    遊具なき遺跡公園地虫出づ

    春星より脊椎賜りしごと歩く

    築山はさびしき山よ春の虹

    文明の外かもここに春日受け

    太陽に菜の花と子と伸び続く

    下萌の下に大地の漲れる

    充電のコードの冷えや夜の管絃

    春雷やストロー挿したまま捨てる

    霞立つ袋の中のカップ麺

    身のどこも傷ついていない春の闇

    花を見る眼の数と花の数





パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved