小 熊 座 2019/3   №406 小熊座の好句
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    2019/3   №406 小熊座の好句  高野ムツオ



    南北を磁石定めり除夜の星        津高里永子

    地球とは大きな磁石しゃぼん玉      菅原はなめ

  地球は北極の方にS極、南極の方にN極がある磁石が真ん中を貫いているような

 ものだと学んだのは中学生の時だったろうか。地球の本当の南北とも方向が少しず

 れていることもその時教わった。ただ、なぜそうした磁場が生じるかには、最近まで

 無頓着だった。さらに、この磁場は地磁気とも言われ、それは年とともに変化し、さら

 には数十万年の単位で消えたり現れたり、南北が逆転したりするということを知った

 のも今回である。原因は磁場を形成するマントルやその中心の地球中心核の金属

 がぐるぐる回転して電気を生じさせるせいであるらしい。どうも、想像力がついていか

 ない。自然界の仕組みの方が人間の想像力をはるかに凌駕しているようだ。一句目

 は除夜の磁石。鐘の音を聞きながら震え南北を指す磁石。未来をも指し示している

 のだろうか。二句目はストレートに磁石そのものの地球を言い止めた。楽しい発想で

 あるが、もしかしたら地球もしゃぼん玉も同じ命運と気づくと怖さが倍増となる。

    マンモスはオーロラの下水仙花      佐藤 みね


  これもまた壮大な時空を捉えた句。オーロラもまた磁気と深い関係があるらしい。

 発生原理は、太陽風のプラズマが地球の磁力線に沿って高速で降下し、大気中の酸

 素元素や窒素元素を励起することによって発光するらしい。ただし、こう引用している

 私自身がよくわかっていない。わかるのは地球の自然現象とは人智をはるか超えた

 営みであるということぐらいだ。凍土の下に眠ったままのマンモスにも傍らで開いた水

 仙にも、そのオーロラの荘厳なショーは見えていない。人間にもまた見えなくていい

 のだ。

    嬰児に山河は古し去年今年        森田 倫子

  初山河は正月の気分で眺めた趣を指す季語だが、生まれたての赤子には、その

 瞬間から山河は絶え間なく古び滅びいくとの発想。斬新である。一年の時空は老若

 男女一人一人、すべて多様多種ということにも気づかせてくれる。

    「こだなゆぎさすけね」と目をしばつかす    阿部恵美子

  会津弁の「さすけね」はもともと「たいしたことはない、大丈夫」という程度の意味らし

 い。それが、けっこう辛くとも、相手の気遣いを慮って「私は大丈夫だけどね」との受

 け応えの言葉となったようだ。「なじょした」も同じ会津弁だが、「どうした」という問い

 かけ。それに応えて「さすけね」という具合である。微妙なニュアンスのほどは知らな

 いので、誤っていたら許していただきたいが「こんな大雪。私らはなんとか大丈夫だ

 が、訪れたあなたはたいへんだろうね」と言った程度の意味と想像する。豪雪地帯

 に育まれた素朴な思いやりに満ちている言葉だ。そして、この句からはそう呟きなが

 ら向けた老人の眼のまたたきと澄み具合が浮かんでくる。

    子らの笑み遅れて氷割れる音       佐竹 伸一

  状況はわかりにくい。だが、たとえば、初冬の公園や道端。通りのすがりの子供達

 の笑顔があふれ、次に彼らの足が踏んづけた氷の割れる音が聞こえたと解すること

 は可能だろう。雪国ならではの一光景がリアルタイムに伝わる。

    反戦のデモ行進ああ雪催        千葉 百代


  「ああ」の自虐的嘆息がユーモアとしたたかな抵抗心をも感じさせる。諦観と見せて

 実は不屈なのである。





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