小 熊 座 2019/2   №405  特別作品
TOPへ戻る  INDEXへ戻る


 










      2019/2    №405   特別作品



        御身体         日 下 節 子


    救急車霜夜の底を走り来る

    サイレンが極月の闇響かせて

    救護隊のやさしさに触れ冬の月

    点滴や一粒づつの影冴ゆる

    帰宅許可出てより匂ふ冬の薔薇

    雪嶺の蔵王の風と通院す

    通院の畦にはこべら仏の座

    御身体は光一粒冬鷗

    宮司より神の謂れを綿虫と

    神さまは滝に祀られをられけり

    岩苔の透ける細身の冬の滝

    堂裏は朴の落葉で埋まりけり

    朴落葉踏みつつ上る女坂

    冬麗や分霊こもる高野槙

    大杉は樹齢千年寒日和

    福を呼ぶ大杉撫でて寒参

    神鈴を振つて綿虫見失ふ

    臘梅の香りの奥にある未来

    未来とは未知の日々なり梅の花

    白毫の光りを宿し梅の花



        不知火抄 (二)      武 良 竜 彦


    如月の物書く人は明日に病む   
石牟礼道子忌

    「のさり」という受苦を抱きしめ寒昴   
悼 日吉フミコ(水俣病運動の母)

    「チッソを許す」匕首のごとき筆の先   
緒方正美著書から

    「私もチッソだった」あなたはと問う打瀬舟   
緒方正人著書から

    撮って病むユージン・スミス写真集

    加害とは消費すること初日の出

    日の丸の中性脂肪や冬茜

    日が差せば寒さが見える峠道

    ふるさとは今も包帯霜の声

    掘れば哭く土偶の破片冬の浜

    冬怒涛(とき)は渚に跪く

    捨てられし民か真冬の夕星は

    浦島の還りし冬の水銀値

    水銀値寡黙動顚冬不知火

    鯔でんぐり夕焼けでんぐりポコ・ア・ポコ

    カンツォーネ・初日・不知火・アルデヒド

    オーガニック・マーキュリー・ポイズニング春の海

    春の海磯貝薨るカンタータ

    逝きし児の毬は春の雛孵す

    不知火のあれは方舟焼く浜か



        寒 鴉            松 岡 百 恵


    不条理を昨日に置いて梅雨晴間

    吾が影にスコップ突きて炎天下

    飲み干せりペットボトルの夏空を

    晩夏光水をとつぷり吸ふ写真

    夜濯のシャツの微光や愛あふれ

    老人ホーム桜紅葉を塀にして

    花八手程よく暗き厠の灯

    裸木の影の先より地に滲む

    冬帝や我は自由にただ歩く

    ママなれど母を疎みぬ霜の声

    独り子に子犬寄り来る冬日和

    冬銀河両手で大き丸作り

    来年の約束をして冬至風呂

    まだ雨を知らぬ嬰児聖樹に星

    赤緑銀の折り紙雪催

    口笛を今や吹けざる父の冬

    ボヘミアンラプソディー啼き連なりの寒鴉

    新雪の浜を思へば軋みけり

    小寒や更地に卵潜みをり

    一人逝き冬青空の濃くなりぬ




パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved