小 熊 座 2018/8   №399  特別作品
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      2018/8    №399   特別作品



        梅雨空         𠮷 野 秀 彦


    時の日や蘖よろし空青し

    蕗の葉のいつも破れて風の道

    高層のビルも竪穴道おしえ

    野牡丹のいつしか空を掴みおり

    十方から夏闇を縫う尾長鳥

    美しき影をしたがえ実梅落つ

    夏座敷骸になればここに足る

    転生の輪から零れて濃紫陽花

    梅の実を取りて広がる父の郷

    指なべて鋏のかたち藤の蔓

    空調の鎧溶けだす梅雨晴間

    それぞれの風受く形蓮浮葉

    善人の影と見えたか錦鯉

    光圀の築山越えて雲の峰

    悪業の身に子雀の眼は丸し

    光圀の藤棚風を遊ばせて

    近づいて離れて細き雀の子

    大伽藍の鬼瓦見え風涼し

    水音は右へ右へと蓮浮葉

    梅雨の蝶沖縄戦の終えた日の



        白い太陽        遅 沢 いづみ



    沿線の二軒に泳ぐ鯉幟

    新緑の山から始業チャイムかな

    休憩所胡瓜を齧るカメラマン

    緑さす高根沢オンリー牧場

    白シャツをたるませて高二の男子

    祭には制服の名誉駅長

    泣いてゐる子に寄り添ふ子夏帽子

    何に仕上げるかは知らぬバナナ柄

    鬼やんま野口雨情の裏山に

    底浅き沢の沢蟹明るい日

    夕焼けに二千メートル級の山

    路地裏の茂りに和裁研究所

    夏季講座若き男女は悩む顔

    明早し江崎グリコの走る人

    江戸村に停まる軽トラ竹の夏

    紫陽花や保健室派と図書室派

    紫陽花に白い太陽八溝山

    やみぞ村ちからあふるる百合の花

    紫陽花の恋透明なガラス窓

    嗚呼何に左様ならなの夏の空