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第九回 佐藤鬼房顕彰全国俳句大会嘱目入選結果


  去る3月19日(土)、塩竈市ふれあいエスプ塩竈において開催された結果は次の通り。

 応募部門の投句数は、一般部門2,071句、ジュニア部門3,211句、当日104句、総数

 5,386句。当日参加者約150名。

  ※嘱目の部の選考は、全選者の公開討論を経て決定。


  佐藤鬼房奨励賞

     鬼房の眼の沁み込んでゐる冬木         小菅 白藤


  中原道夫特選
   

     鬼房の眼の沁み込んでゐる冬木        小菅 白藤

     海鼠腸を奇語と思ひつ一箸目         瀬戸 接雄

     後朝の朝は流れぬ作り滝             子安 啓司

   鬼房の鬼に触れなば春の雷       仙台市 小田島 渚

   第二席   初蝶や箸に崩るる骨拾ふ         仙台市 池田 紀子

   第三席   一湾の彩をひとつに囀れり        仙台市 佐野 久乃

  西山睦特選

   第一席   鬼房の小径つくしの声揃ふ        仙台市 山田 史子

   第二席   春光を束ねてポニーテールとす      盛岡市 工藤 玲音

   第三席   弁財天銭をはづめば梅匂ふ        仙台市 竹中ひでき

  照井翠特選

   第一席   黙祷は一枚の岩春吹雪          能代市 船越 みよ

   第二席
   鬼房の鬼に触れなば春の雷       仙台市 小田島 渚

   第三席
   三月の積まれし石に石を積む      東京都 松岡 百恵

  高野ムツオ特選

   第一席   切り株はあの桜です小学校        東京都 佐藤  茉

   第二席
    藻塩から縄文の声春の月         美里町 佐藤 みね

   第三席
   鬼房に会ひたき春の海の色        福島市 草野志津久

  渡辺誠一郎特選  

   第一席   人間はなぜ生きるのか蜷の道      大阪市 上野まさい

   第二席   鬼房の鬼に触れなば春の雷
        仙台市 小田島 渚

   第三席   覗き石覗けば風のまた光る        大河原町 永野 シン

  髙柳克弘特選

   第一席   春の野のいぶきは近し塩竈も       仙台市 末永 栄子

   第二席
   海中は母のふところ春の虹         塩竈市 堀籠 政彦

   第三席   分断の線路繋がり麦青む          仙台市 宮崎  哲

  神野紗希特選

   第一席   啓蟄やブラボーブラボーと鴉        松島町 上田由美子

   第二席   去年見し馬放島も霞かな
           日立市 小野 道子

   第三席   足跡に足重ねゆく遠雪崩           仙台市 泉 美智子

  佐藤成之特選

   第一席   一抜けて鬼房小径に蝶追へり       多賀城市 酒井美代子

   第二席   土筆もて父の日の句碑なぞりたし      多賀城市 黒田 利男

   第三席   カラスいろいろ拾い集めて春の雲     多賀城市 田村 慶子

 塩竈市長賞          

     鬼房の鬼に触れなば春の雷           仙台市 小田島 渚

  塩釜市芸術文化協会長賞

     三月の積まれし石に石を積む         東京都 松岡 百恵

  塩竈市観光物産協会長賞

     切り株はあの桜です小学校            東京都 佐藤  茉


                                                  嘱目の部公開選考会







  第八回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会参加記①


   鬼房大会参加記

                                            佐々木 とみ子

  八回目を迎えた「鬼房顕彰俳句大会」は花マル付きの晴天だった。駅のすぐ前の横断歩

 道を渡りすぐ会場でとても便利なのだが、年々昔懐かしい顔が減ってゆくのが、ちょっと浦

 島太郎的気分である。だが若い活力のある方たちが増えてゆくのはやはり嬉しい。

  と陸に上がってのんびり楽しんでいたら、いきなり「原稿」の指令がとんできた。忘れっぽ

 くなってよく覚えていないので、一番おもしろかった「シンポジウム」にしよう。

  「鬼房俳句の諧謔について」

  これまでいろいろのテーマが設定されたが、「諧謔」は意表をついた。別の角度からの照

 射で違った鬼房の顔が発見できそうである。そもそも諧謔とは何ぞや。パネラー諸氏があ

 げた例句と解説を聞きいちいち肯きながら、私には宇井十間氏の説が痛快だった。「諧謔

 とは庶民的なユーモア、共同体で暗黙のうちに解るユーモア。鬼房の句に諧謔性があるの

 か」(まちがっていたらごめんなさい)。

  そこでふと思いつくのは津軽のホラ話である。今のように出稼ぎの仕事もなかったから、

 冬は縄や筵を編みながらてんでにホラ話を創作した。不作で食う米がなくても、泣き言の

 かわりにホラを吹き、更に輪をかけたホラを考え出しながら笑いとばすことで怺えた。難か

 しく言えばあれも諧謔なのだろうか。

  俳句は読み手によって鑑賞が微妙に変わる。もちろん鑑賞のきっぱりと不動の句もある

 が、それもまた作者の背景を知ることで味が変わる。正しいとか間違いとか言えない。つま

 りは作者と読者とのハイタッチなのだ。だから俳句は深くておもしろい。

  真剣に取り組まれたでしょうパネラー諸氏の解説を聞きながら、いちいち納得できて楽し

 かった。ところで引用された句集に『幻夢』がなかったのが、私と違うと思った。

  諧謔というしろものは気力の漲っているときより、身心の劣えを自覚したころから旨味が

 でてくると思うのだがどうだろう。

  塩竈のホテルでなかなか寝つけないまま、また考えてみた。諧謔、滑稽、洒落、道化。似

 ているようでどう違うのか。この間亡くなった桂米朝の噺は諧謔なのだろうか。

   暖かな海が見ゆまた海が見ゆ          鬼房


  『幻夢』最後の句。私はこの句が好きだ。

  鬼房からはいつも地獄を教わってきたと自分では思っている。愛も悲もみな地獄を棲家

 と定めてのものだった。その生涯のしめくくりが「暖かな海」である。ああ、先生、そうきまし

 たかと微笑がわいた。うれしかった。堅牢な地獄のどんな隙まから抜け出されたのか。そ

 れとも地獄のなかに暖かな海があったのか。

  鬼房のことをよく知る人も全く知らない人も、俳句に縁のある人もない人も、死ぬとか生

 きるとかにも関りなく、読み手それぞれに大きくて暖かな海を想像するだろう。


  もし天秤の皿に鬼房生涯の句を載せ、分銅に〈暖かな海が見ゆまた海が見ゆ〉を吊り下

 げてピタリと釣り合ったら、これも生涯かけた諧謔かなあと思ったりした。ふと気がつくと、

 塩竈の空が少しずつ白んできていた。





  第八回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会参加記②


   公開選考会の醍醐味

                                             坂 下 遊 馬


  3月22日は、春うららかな陽気、第八回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会が塩竈市の「ふれ

 あいエスプ塩竈」で開催されました。私は第六回大会に続き2回目の参加、今回は清記、

 嘱目投句の回収を担当しました。当日は10時に受付を開始、宮城、東北を中心に全国か

 ら約220名の方が参加、北は青森市や弘前市、南は大阪市や四国など遠方からの参加

 者もいて、あらためて俳人佐藤鬼房の魅力、人気に触れることができました。

  大会は12時半に開会、高野ムツオ大会実行委員長の挨拶、佐藤昭塩竈市長の祝辞の

 後、午後1時からジュニア部門の兼題入選句の表彰、続いて、「鬼房俳句の諧謔」と題した

 シンポジウム、午後3時半過ぎに嘱目公開選考会、最後に、兼題、嘱目の入選句表彰が

 行われ、手作り感に溢れた大会が印象的でした。応募句の総数は兼題、嘱目合わせて約

 4200句を数えました。ジュニア部門の応募数が2400句と六割もあり吃驚しました。

  兼題の選者は一般部門が深夜叢書社主の齋藤愼爾、駒草主宰の西山睦、寒雷・草笛

 同人の照井翠の各氏と小熊座の高野ムツオ主宰、渡辺誠一郎編集長、ジュニア部門が

 鷹編集長の高柳克弘、神野紗希の各氏と小熊座の佐藤成之同人。佐藤鬼房奨励賞(一

 般部門)は大会史上初の三名受賞となりました。

  〈悲しみの器ならきれいな春の水〉、〈大寒やレールは骨のごと継がれ〉、〈百万本のろう

  そくとなり雪に立つ〉、ジュニア部門は、〈凍蝶の叫びを飲み込む画集かな〉

  さて、注目の選者八名による嘱目公開選考会。当日の投句数は117句、各選者が七句

 を選句した結果、予選通過作品は40句。この時点で最多の三票を獲得した作品が四句

 あり、この中に佐藤鬼房奨励賞の有力候補が入っていると私的には予想。

  〈春悼む羽あるものは羽たたむ〉、〈一湾の彩をひとつに囀れり〉、〈三月の積まれし石に

  石を積む〉、〈春光を紡ぐ足踏みミシンより〉


  ところが、これが公開選考会の醍醐味か、「気になる句」について各選者が解釈や評価

 など討論を重ねる中で、「よく使われているフレーズ」や「意外性に欠ける」、「理屈っぽい」

 などの意見が出る句もあり、票の行方に微妙な変化が表れる。最終選考の結果、鬼房奨

 励賞は、最多の六票を獲得した〈黙祷は一枚の岩春吹雪〉、塩竈市長賞は、四票の〈鬼房

 の鬼に触れなば春の雷〉、市芸術文化協会賞は、同四票の〈三月の積まれし石に石を積

 む〉、市観光物産協会賞は、三票の〈切り株はあの桜です小学校〉に決定。予選通過時点

 では有力だった句も、選考過程で変遷していく意外性に、公開選考会の醍醐味を味わうこ

 とができました。

  また、神野紗希氏の第一席、〈啓蟄やブラボーブラボーと鴉〉や西山睦氏の第二席、〈春

 光を束ねてポニーテールとす〉、入賞、選者特選にはもれたものの、予選を最多得票で通

 過した〈春光を紡ぐ足踏みミシンより〉などシャレた句にもたくさん出会えた大会でした。

  最後に、4月4日の地元紙に愛媛県松山市の教員中矢尚氏の一文が掲載されました。

 「俳句好きの中学生の娘と鬼房俳句大会に参加し、鬼房小径を歩き、市場巡りや松島へ

 の遊覧船と堪能した。牛タン、ホヤ、地酒に私もはしゃぐ。最終日には語り部タクシーに乗

 り蒲生から閖上に案内してもらった」、その娘さんが漏らした言葉にハッとしました。「観光

 に来て何かを見ることはあっても、ないものを見ることはできない。不思議だった」

  私たちは、あの未曾有の大震災を風化させることなく、これからも語り継いでいかなけれ

 ばならないと感じました。様々な表現形式の中で俳句はその蓋然性が最も高いのではな

 いかと思っています。





  第八回佐藤鬼房顕彰全国俳句大会参加記③


   シオーモに集う日

                                             根 木 夏 実


  今年も一関から塩竈へ向かう朝7時の電車に乗り込んだ。集合時間の一時間ほど前に

 塩竈駅に到着してしまいどうしようかと思案していると、偶然にも中村春さんと合流すること

 ができた。事情を説明すると春さんも「早く来すぎてしまった」とのことで、鬼房小径まで案

 内していただけることになった。鬼房先生の句と筆跡、そしてこだわりのある石が織りなす

 一つの芸術をまだ訪れていない方には一度味わって欲しいと思う。小径へ行く途中、貝殻

 の埋め込まれた歩道があり塩竈の町の洒落っ気にも改めて感動した。

  さて、事前に連絡を頂いた際には「当日は賞状の介添え係」と伺っていたのだが、急遽

 「選者先生方の接待係」に。慣れないことで緊張したが、個人的に貴重な経験ができたと

 感じている。いつの日か自分たちの世代が中心で運営するときのためにも、今から少しず

 つ動き方を覚えていきたい。

  今年は、見事入選を果たした黒岩さんが遠方の岡山県から参上してくれたり、「駒草」の

 ルーキー浅川芳直くんも参加してくれたりと十代・二十代の方々と出会えて楽しかった。同

 年代ではあるが、自分とは違った俳句に触れられたことが良い刺激になったと思う。当日

 句 〈春光を束ねてポニーテールとす〉 というピュアで溌溂とした一句で特別賞を受賞した、

 この春から大学生で「樹氷」の工藤玲音さんに直接お会いできなかったのが少し残念だっ

 た。

  恒例のシンポジウムでは「鬼房俳句の諧謔について」と題し、鬼房俳句の諧謔とはどの

 ような諧謔の種類なのかを中心に議論された。このシンポジウムを通して、鬼房俳句に描

 かれている諧謔は、自虐を昇華し諧謔の定義を広げていること。また、屈折を経た弱さの

 救済であるということが印象深かった。それは、句の対象は自分でありながら、宇井十間

 氏選〈北冥ニ魚有リ盲イ死齢越ユ〉のように時に神話的レベルで表現し、時に栗林浩氏選

 〈老衰で死ぬ刺青の牡丹かな〉から漂う生の延長の死などがあり、諧謔性の幅が富んでい

 るところに面白さがあるからだと考える。特に、関根かな氏・矢本大雪氏が選んだ一句〈蟹

 と老人詩は毒をもて創るべし〉は衝撃的な句であった。鬼房俳句を語るにあたりパネラー

 の方々から「貧しさ」という言葉が繰返し挙げられていた。本当の貧しさを知らない身には、

 裏悲しさのある弱者の俳句を創ることなど不可能に等しく、何より私などの二十代がこの

 ような句を創ったとしてもここまでの『毒』を感じさせることはできないだろう。最後までわか

 りやすく円滑に司会進行してくださった神野紗希氏選〈やませ来るいたちのやうにしなやか

 に〉は私も好きな句であるが、諧謔の面から捉えると、確かに『やませ』という冷害を詠んだ

 この句も一種の諧謔を含んでいることに気づくことができた。時間の関係で客席との意見

 交換はできなかったが、鬼房先生の俳句や人柄の一面を感じたシンポジウムであった。

 次回は鬼房俳句にどのような視点から迫るか楽しみである。

  最後になりますが、選者の先生方・大会開催にご尽力くださった方々・参加してくださった

 皆様に感謝致します。また元気でお会いしましょう。






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