小 熊 座 2014/8   №351  特別作品
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      2014/8    №351   特別作品



         柿若葉         阿 部 流 水


    早春の雲摑まむと赤子の手

    鳥獣の愛が溢れる木の芽山

    春暁を点滅したる街路灯

    春昼の抽斗軋む忘れ物

    陽炎の中に佇み呆けたり

    老年の背骨揺さぶり春一番

    牡丹を咲かせて老境深まりぬ

    フクシマを逆撫でしたる春疾風

    春眠も春宵もまた奪われし

    東風に問へ山河を汚すのは誰だ

    フクシマの薮にて雉が首かしげ

    荒れ果てし避難区域に囀れる

    夢の世に隠沼ありて残る鴨

    来るはずのなきメール開け涅槃西風

    日向ぼこ家郷無くした者同士

    末黒野に放射能をば測りおり

    落椿震災被曝語り継げ

    新しき旅へと誘う花筏

    復興の幟はためく若葉風

    一歩一歩進むほかなし柿若葉



        梵論子         渡 邊 氣 帝


    血液は電流春愁はノイズ

    喧しい口約束や復活祭

    止まらない電車に乗って種蒔に

    踏絵ふみあとは水泡のように居る

    孕りし母陽炎に水尾曳いて

    渡り漁夫翼を鰭を追い求め

    見えるもの見えないものへ閑古鳥

    梵論子をつき動かしたのは白瀧

    常闇に斃れぬように梅を干す

    野点傘そこは筍跨いで通る

    旭光に日時計あわす森林浴

    白砂青松濡れて生まれる心太

    髪洗う山の畑に逃げ込まれ

    人に馴れる新種の河童に水番させ

    灼けた遮断機空気も灼けて喉仏

    浴衣着る怖れて家を離るとき

    昭和だなマドロスパイプハンモック

    蚊柱は夜そのものの頭かな

    四季めぐり青大将が鉛筆ほど

    暑気払うポポンと肩を叩かれて



        海鞘握         岡 田 明 子


    魂宿るはくれん高し多聞山

    薫風や子離れやっと出来し身に

    大津波来し海青し海鞘握

    祥月やジャーマンアイリス影拡げ

    クロッカス閉じる昏るるを怖るかに

    イヤリング外し暮春を老いてゆく

    建ち捗むビルに新樹の光かな

    丁度合う形見の指輪よもぎ摘む

    野の息吹摘み来て供ふよもぎ餅

    葉ざくらや湖心より闇這ひ上る

    柿若葉生れ来る子は男の子かも

    一病もなけれど哀し彼岸西風

    雨の芍薬一本剪りて供へけり

    いちはつも出羽の湯宿も雨の中

    芍薬の崩るる時のかほりかな

    深々と鳥居の奥の木下道

    みちのくの重たきものに竹の花

    空いっぱい鈴振る如くさくらんぼ

    夏山の奥に白しろ銀がね月の山

    重ねたる齢にしかと初夏来



        大往生         冨 所 大 輔


    年の酒喉を通す生き残り

    雪はゆっくり切れ切れの息を吐く

    うつしよの一夜で築く雪景色

    いうなればいのちの伸びる軒氷柱

    永き日のいのちものびて湯浴みする

    よく動く赤子の諸手春陽さす

    春雪を被りて怒る鬼瓦

    同居する春のインフルエンザ菌

    わが足が我を運べば木の芽張る

    啓蟄や墳墓は何時も深眠り

    蒼穹を画布に残雪越の山

    春浅し座浴で宥める血のながれ

    野仏の相好崩れ水温む

    若死にも長寿も難儀柳絮とぶ

    蕗の薹橋渡りゆく二人連れ

    彼岸寒大往生を読み返す

    目借時独りに馴れて存える

    菊根分けグラム単位に育つ稚児

    逃げ水や老人は追うどこまでも

    花は山吹生涯ここに住みとおす



        夏の蝶         柳   正 子


    日に透きてもう空の色夏の蝶

    蒲公英の絮のいくつか雲に乗り

    あれが滝これが渓谷世田谷区

    夕焼を掃いても掃いても齲歯痛し

    壊れしは私と薔薇の花びらと

    見えそうで見えない夏の星が好き

    雨の灯の瞬き闇とふれあへり

    栴檀の花の香空はひろびろと

    夏怒濤月の海より寄せ来たる

    秩父連山棚に夕顔ひとつきり

    礼をするのみ新緑の原爆ドーム

    浮き桟橋夕焼のせて微動せり

    お施餓鬼やあめんぼの影ばかりあり

    中空に風しづもりし夏燕

    祖先より末裔敬ひ草の市

    草臥れて寝転びをれば卯波寄す

    下闇に息の音する静かな日

    日焼して上手く眠れぬ老年期

    巴旦杏透明になる海の冷え

    沙羅の花正直すぎて寂しけれ





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