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 小熊座・月刊 
  


   2014 VOL.30  NO.345   俳句時評



         若者たちの場

                              大 場 鬼怒多

  俳句甲子園出身の俳人の活躍が目に付きますが、実のところ俳句を続ける人が少ない

 と聞きました。昨年九月に創
刊された「群青」は、若者たちが俳句の腕を競う場にと、櫂未

 知子・佐藤郁良の両氏の指導の下、俳句甲子園出身者
を中心にした季刊同人誌です。さ

 らにいえば、佐藤氏が俳
句甲子園常連校・開成高校の教師であることから、「群青」は開

 成高校OBの会といってもよいのかも知れません。


    しばらくは一緒に待とう蟻地獄     櫂 未知子

   夏つばめ海の群青定まれる      佐藤 郁良

   南風や馬の眼に野のぐるりぐるり   宇野  究

   処世術・ビーチサンダル・あとは髭   谷  雄介

   碑になれば過去のことなり蝸牛     酒井 俊祐


  創刊の言葉・俳句時評・江戸俳諧研究・写生論等、どれ
も正面から堂々と攻めていて、

 それらを通して「群青」の
領域を知ることができました。二○○九年、二十一世紀にデビュ

 ーした二十一人による「セレクション俳人 新撰
21」のあとがきを思い出します。


   そこに選ばれたと否とにかかわらず、若手の意欲を掻き立て、切磋琢磨を促すと共に

  俳句界の風景を変えてゆくひとつのきっかけにも……。


  本誌も昨年十二月号において、新鋭誌友四名(俳句甲子
園出場者あり)による「20代特

 集」を組んでいます。


   
ざらつく手触りの木星さやけし     山本美星子

   体内に生も死もあり天の川      千田 彩花

   街中に朝を知らせる油蟬       古川 修治

   霜柱撫ぜれば言葉はじまりぬ     千倉 由穂


  各々二十句ずつ、鋭い感覚をそれと意識しないで生み出
した句にちがいないと思われ、

 そこに無垢の詩情が生きて
いると感じました。

  もうひとつ紹介したいことがあります。十二月の私ども「土の会」の俳席に、宮城県仙台

 白百合学園高校の生徒と
先生、卒業生が連なってくれました。前日、読売新聞社主催の

 「全国高等学校文芸コンクール」俳句部門/最優秀賞・読売聞社賞を受賞して表彰式に出

 席されたとのこと。


   淡雪や被災者という同い年      荒舘 香純

  同い年でもある被災者への優しさといたわりに満ちた佳句。言葉の中に作者の万感の思

 いが込められています。中
学2年の時に東日本大震災を経験。その時の心情を俳句に

 現しました。

 「自分と同じ年齢の人がつらい思いをしているのだと、なんともいえない悲しい気持ちにな

 りました。同時に、被災
者という言葉の冷たさと厳しさを感じました」

 震災を詠むことに積極的ではないそうです。


   北風は無き曽祖父の匂ひして     荒舘 香純

   教室に忘れ物した冬の月        菅野 早織

   ガラスより清く師走の泉かな      佐藤 一麦

   冬の朝白になりきれない私       加藤 晴香

   冬の空ショパンの鼻の尖りをり     平井みどり


  新鮮な感覚の句が並びました。写実ではない、想念の世界。しかし、作者にとっては紛れ

 もない事実。そして、その事実は、意想外であって鮮烈でなければなりません。彼女たちの

 いそがしく重苦しい日常を引き裂こうという願いは、そうでなければ果たされません。加藤さ

 んは卒業生、
平井さんは引率の先生です。

  最後のエピソードは、長野県松本市浅間温泉/菊之湯「俳句賞」。縁あって、詩人のねじ

 め正一さんと私とでこの賞
のお手伝いをさせていただいています。先だってこの宿の大女

 将から分厚い封書が届けられました。投稿・投句の数
もこのところ少なくなってきていたの

 で、これはきっと
「もうこの辺で、この俳句賞の幕を閉じましょう!」というお手紙かと思いき

 や、川越市立福原中学校の生徒さんか
らの一人一句・百五十句にものぼる大量の句稿で

 した。担
当の先生がインターネットで発見して、生徒のみなさんに計り、みんなの賛成で投

 句をまとめたのだという内容でし
た。学年と氏名の下には、俳号まで記入する念の入れよ

 う。


   理科室の匂いの先の吾亦紅       三年

   湯豆腐や屋根より下の白い雲      三年

   日が沈み影にのまれし冬の跡      二年

   冬の蝶木漏れ日の中明日へ行く     三年

   手の中に命がひとつ都鳥         三年

   青春の光の中に雪が降る         二年

   天に向け湯気立つ風呂と冬みかん    二年

   毛糸編む母の隣で笑う猫         二年

   水仙の端に隠れて風に問う        三年

   向き合った瞳にうつる冬景色       三年


  まだまだ紹介したい瑞々しい、生き生きとした句が手元に残っています。

  俳句は最短の定型詩として、堅牢な枷をおっていますが、それだけに不思議な魅力をも

 った形式ともいえるでしょう。
俳句を書くということは、形式の恩寵にあずかりえるか、あ

 いは手痛い仕打ちを受けるか、どちらかということ。ひ
とりでも多くの若者が、有季・無季に

 拘泥せずに、自分の
言葉の持つ色や匂い、リズムを体感して欲しいものです。





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