小 熊 座 2013/11   №342 特別作品
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      2013/11   №342  特別作品



        滝 壺         阿 部 流 水

    あの日から帆を見失い夏の海

    ベクレルの表示されたる街薄暑

    若鮎の線量測る人だかり

    紫陽花の雨が滴る大川小

    避難の子蜥蜴のようにすばしこく

    高台へ自由自在に岩燕

    風鈴かはた鉦の音か仮設小屋

    死者生者闇に溶け合い盆踊り

    三陸の漁師やませを背負い来る

    病個室朝の蜩遠く聴く

    蜩が夜の帳を引きに来る

    短夜の夢の奥まで暴走音

    反抗が丸見え夏の夜の爆音

    朝露に濡れて人恋いそめし頃

    幼年の夢が散らばる露草

    この先は霧に没して行く旅か

    関守のごと万緑のゴリラ岩

    ヘンゼルの森かも知れず木下闇

    一瞬の隙も見せざる瀑布かな

    滝壺に落ち着く水の新境地



        海牛の瞑想         矢 本 大 雪


    それぞれに郭公啼かす回想記

    大雨になるぞと叫ぶ水馬

    風鈴の残響シキヲミツメテル

    押しピンをとればダリアは夢遊病

    下駄箱が谺のように棄ててある

    若葉を落下中だと伝えてほしい

    立ちどまるたびに花野の霊安室

    銀河深すぎて肘まで湿っぽい

    露草の海しか見えぬので瞑る

    まんぼうが漂い肺にできる翳

    まず声を忘れて白濁の夏空

    ユーミンの声出してみろ凌霄花

    迎え火の向こうの闇が濡れている

    送り火をはさんで鼓動するばかり

    虫籠にひしめく夜の認知症

    責めるよに見るので月を認知する

    ありったけの萍あつめわが昭和

    海牛の瞑想つづく桜桃忌

    光年は父と子の距離行行子

    蓮の淵覗く八月十五日



        秋の蟬         吉 野 秀 彦


    蝸牛どかして洗う父の墓

    墓洗う身内に虫となりしもの

    補助輪をカタコト鳴らす帰省の子

    盂蘭盆会銀に輝く閼伽の水

    茄子の牛大佐も歩兵も背に乗せて

    秋の暮加賀百万石の風の中

    たっぷりと水撒く夕べ敗戦日

    生身魂納豆味噌汁卵焼き

    和魂に成れぬ人らし秋の雷

    秋の蟬シャッター開かない文具店

    犍陀多はしょせん犍陀多霧の谷

    沙悟浄のでんぐり返し秋の雷

    日本の汚染水という秋の水

    迷宮の街には母と秋の蟬

    御神楽の合の手跳ねて秋の蟬

    蚯蚓鳴く汝が災難の目に見えて

    秋の蝶屋根を越せない愛の嵩

    秋天や岸本葉子の素直な文

    育むものすぐ離れゆく秋の蝶

    浄瑠璃の鏡の端に藪枯らし



        白紙賛         さ が あとり


    百物語幽霊子育飴本舗

    新京極寺町京極秋の風

    秋風や白磁粉引に白漆

    共徳丸解体秋は白紙賛

    あたりまへにきのふとおなじあす根分

    水引草悲劇喜劇は紙一重

    首都高も西瓜も打音検査かな

    兄弟はやつぱり他人水澄めり

    刑執行いつも過去形桐一葉

    稲びかり木乃伊腰椎すべり症

    阿波踊をとこは腰の低さかな

    野ざらしの梵鐘そだつ秋の声

    ねておきて葡萄そだててまたねむる

    竹伐つて相合傘を通しけり

    涙もろきことに舌打ちチッチ蝉

    あとはもう駄句のたぐひよ蔓たぐり

    雑食性雑読雑念秋深し

    新聞蝶ふはり詳細はウェブで

    蘆の穂やながれにまかすことも禅

    やがてこの星が人振る秋扇



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