小 熊 座 2013/5   №336 特別作品
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      2013/5   №336  特別作品


        上野界隈        我 妻 民 雄


    円空のふるふ大鉈冬の空

    人は何 杙奪ひあふゆりかもめ

    水鳥の右往に左往鳥瞰す

    ビル狭間頬嬲りさる春疾風

    ごちやごちやの露地の電線三月来

    尾骶骨恥骨仙骨冴え返る

    春あらし耳を大きくして眠る

    亀鳴くやパンの耳また本の耳

    下駄履の吉本隆明養花天

    まだね まだ 明日ね 明日 初ざくら

    地に伏して ちぢみ菠薐草 甘美

    ヒマラヤの岩塩烏賊の腸にふる

    界隈の蟇出で馬糞ほどの湯気

    太虚の木うぐひす谷へ降らうか  スカイツリー

    掌中の麺麭屑すずめ殺到せり

    鬼房の蛇屋もつとも陸沈す

    盲点を突くべく潜るかいつぶり

    不忍池はのつぺらぼうに鳥曇

    雨降れば赤くなる石ほとけの座

    蕗の薹がいつぱい合掌がいつぱい



        走り根          日 下 節 子


    風光る富沢遺跡保存館 
地底の森ミュージアム八句

    二万年前の走り根亀鳴けり

    未草地底の森の氷河期に

    よみがへる二万年前花の昼

    春を呼ぶ土偶の口の大きかり

    春光や石器時代の石の影

    黄揚羽や太古の森の風の中

    のどけしや地底の森に子らの声

    梅東風や政岡の墓影深し 政岡の墓八句

    真筆の初子の歌碑や梅日和

    仙姫の墓も隣りにあたたかし

    春蟬を聞いてゐさうな墓三基

    正門の施錠の錆や鳥雲に

    石垣に伊達家の家紋囀れり

    蝶の昼墓のうしろに人の声

    春の宵伽羅先代萩(せんだいはぎ)を繙けり

    陽炎や影絵で描く被災の地 藤城清治展四句

    ファンタジーの光と影や春の昼

    陽炎の渚より来し少年か

    藤城の光りと祈り初黄蝶



        初雲雀         秋 元 幸 治


    浅春の雑木林はプレリュード

    幸せのひとつに今朝の初雲雀

    朝桜いつか独りになる匂い

    百年の煉瓦窯より夏の蝶

    頭の中の空青むまで草むしり

    青梅の先に晩年ちらちらす

    青嵐貨物列車に追い越さる

    どくだみの花夕闇の透き通る

    歴史講座終えて新樹の居酒屋へ

    窓の猫視線凝らして梅雨深し

    人を恋い梅雨蝶低く低く飛ぶ

    湿原の風を畳みし黒日傘

    考えのかたまるまでは猫じゃらし

    露草の一途な青を疑わず

    寒月に吾が胸中を見透かさる

    行く人も居酒屋の灯も年の暮

    浮雲へ枯葉となりて風に乗る

    ふと思う異国の港寒夕焼

    未知という希望のありぬ冬の草

    大根を抜きて地球に仁王立ち



        三月十一日       菊 地 恵 輔


    泣けるものみな泣け三月十一日

    鎮魂や心祝いの牡丹雪

    喧嘩とは次元が低し春雀

    春分の日のゆで卵つるりんちょ

    しらぬまに鉢が殖えおりシクラメン

    竹の秋除染地域の風化して

    アポロンの死者の鴉や春渚

    自転車に乗り場違いな春の塵

    ことのほか神妙なりし蘆の角

    あまされの胃袋満たす蓬餅

    屋根板で飛びそう春の宮大工

    かえろうかかえるのよそか木の芽和

    三鬼忌やしりきれ草履なりし夢

    口あけて目薬を待つ春の昼

    春渚夢のかけらが埋もれけれ

    神となる村の公孫樹やひこばえて

    春愁や当りはずれはいつの世も

    風光る眼鏡の奥の眉動き

    のどけしやひがな喰う事ばかりなり

    反古につぐ反古の句ばかりあたたかし





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