小 熊 座 2011/8  №315 特別作品
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      2011/8  №315  特別作品



         かくれ家        平 松 彌榮子

    梅雨晴間人居るやうにうしろの木

    立葵系図平の朝臣まで

    仏界に土橋の届く葛の花

    いつせいに死にき弥生の木を残し

    白袴去るいちめんの蛇苺

    かくれ家や凌霄花棚にあふれしめ

    実梅落ちはるけき時間ただよはす

    杖ついて庭に水打つわが(かたち)

    キャッチホン髙啼くはわがほととぎす

    ころもがへ願はくはわが悪しき腑も

    走り過ぎたるはつなつの忌日あり

    散り敷きて匍匐日昏れの栗の花

    主婦われの痕跡とどめ梅雨の家

    多摩川の土手髙からずつばなの穂

    生き足して颱風圏の雨の坂

    ほたる見に立たむ電動車椅子

    胡桃手に四角四面に暮らさむか

    はばからぬ狹庭の茂りまどろみに

    どくだみの花揃ひ泛く現世かな

    病み抜けて緑の国にある思ひ



         あこがれ        津 髙 里永子


    夏の日や紙の国旗を振り合うて

    造り滝龍舌蘭の根元より

    羅のひるがへる坂多き街

    銃声めく独立記念日の花火

    持つ人が持つ炎天のプラカード

    大きな木かこむ涼しさ神在す

    海見ゆる道緑蔭のオフィス街

    噴水につどふ自転車仲間かな

    片蔭や水族館のある浜辺

    己が脚絡ませて蛸ねむりをり

    川獺の潜る細さに川流れ

    曇天も涼し水陸両用車

    はるかなる雪渓に朝来たりけり

    朝焼の鷗飛びゆくビルの空

    朝潮やパン買ふ列に並びゐて

    シアトルの西日さしこむ森の家

    ポップコーン摑んで抓む芝青し

    インド人多き夕焼の会議場

    花束の花のふくらみ夜の秋

    外国に住むあこがれをさくらんぼ

         猫の髭         渡 辺 智 賀


    大地震の捨田の残照動かざる

    絵日記に心をひらく地震のあと

    地震あと薄羽蜉蝣翳をもつ

    瓦礫山風の穂となる芥子坊主

    地震あとの水動きけり蝌蚪の紐

    蝸牛越えて行くなり瓦礫山

    避難所のつかの間の風四葩咲く

    避難所の枕の凹み河鹿笛

    風の中三味線草と猫の髭

    太陽へ首をのばせり花梯梧

    泥水の光の中を夏燕

    板塀をくぐりぬけたる羽抜鶏

    草笛を吹くや棚田へ夕()がとどく

    ふるさとの実梅きしきし籠の中

    鹿落の風の流れて青胡桃

    蛍とぶ地図に画きたる点と線

    さよならの一日(ひとひ)をたたむ白日傘

    兜虫闇をひっさげ動き出す

    桐咲いて波音空へのぼりけり

    槌音や風と光のサングラス


         夏蝶と         柳   正 子


    三月十一日映像無音無臭にて

    瓦礫中皎と道あり風光る

    春深し瓦礫・骨又瓦礫・骨

    三月の黒き怒濤を思ふべし

    友逝きぬ水底に春漲れる

    目に痛き青空春の大地震

    海薄暑ウラン元素の降る世紀

    津波後の海見ぬ日々や糸蜻蛉

    柳絮とぶ空の涯から大津波

    津波後のまぶしさ海も夏空も

    泥土乾きて夏蝶と光り合ふ

    広すぎる太平洋と夏の天

    呼び声に遠くで応へ夏の雲

    青北風や墓をとりまく海の色

    眦に一瞬の闇夏燕

    足音のひとつは吾が子茗荷掘る

    老艶といふ艶話行々子

    遠くまで空気揺らぎぬ青芒

    明るさの裏側走る青蜥蜴

    子に残す遺言は無し源五郎

          

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