小 熊 座 2009/12 bQ95 小熊座の好句
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      2009/12 bQ95 小熊座の好句  高野ムツオ



   
 オリオン座流星群ああ流行り風邪          我妻 民雄

  オリオン座流星群は、ここ数年、出現数が急増しているのだという。これまでは一

時間に二十個ぐらい見えていたのが、五十個ぐらいに増えているのだそうだ。肉眼でも

見えるらしい。十月十九日から二十三日に掛けて、そのピークを迎えた。しかも、今年

は、この時期に月明りがないため、とくに観察に適していたという。来年は月が明るい

時期にあたり、今年のようには見えないらしい。この次、こんなにたくさん出会えるのは

七十年後だから、小熊座人は、ほとんど生きてはいない。なぜ急増したか。それは、約

三千年前に母天体であるハレー彗星から放出された塵が、この時期、地球の軌道に

接近するためとのこと。宇宙のこととはいえ、さすがに気が遠くなるような時空の話では

ある。 

  この句は、作者が夜通し流星を観測したため、風邪を引いた時のものだとか、例の

新型インフルエンザのウィルスが流星のように降ってきたのだとか、現実に辻褄をあわ

せて読むなら、とたんに魅力の色があせてしまう。確かに、そう読まれそうな危ういとこ

ろで成立はしている。しかし、これは流行風邪などという実に些末だが、深刻な病気に

一喜一憂しながら生きる人間と悠久の宇宙のスペクタクルという二つの現象の落差を

対比した句とだけ読むべきだろう。そうすれば、人間とは、なんとやっかいで矮小な生
 
き物なのかと嘆息をついている作者の自虐的な顔が見えてくる。「ああ」は、その溜息

なのである。


    やがてわが骨も混じらむ流星雨            増田 陽一

  同じ流星群に取材した俳句。この句も、民雄の句に負けないくらいのスケールの大

きさと諧謔ぶりを発揮している。いや、時間に限っていえば、こちらの方が天文学的

か。なにしろ、何十億年先に地球が爆発して宇宙の塵となったとき、その一塵として自

分の骨も宇宙空間をさまようことを夢想しているのだから。確か散骨という葬の方法が

あったが、散骨もここまでくれば、ただ唸って頷くしかない。しかし、この句は単に絵空

事を面白がっているだけではない。それは、この句のモチーフの根底にロマンがある

からだ。死後、流星雨の一滴となって宇宙を漂いたいというロマンである。死後とはい

え、なんと若々しいこと。  


    辿ることのみに億年氷河に夏              土屋 休丘

  こちらは、過去へ視線が向いているが、そのスケールの大きさは、前二句に決して

ひけはとらない。しかも、リアリティという点では、この句に軍配が上がる。なぜなら、こ

の氷河の動きは現実そのものだからだ。氷河に残された寿命は、いや、そのはるか手

前で人類の寿命は尽きるか。  


    貝塚は時間のかたち雁渡し               小笠原弘子
 
    この国のかたちを思う初時雨              大場鬼奴多

    人はみな炎のかたち秋夕焼               高橋 正子


  これらの「かたち」三態もそれぞれ味わい深い。




  
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