小 熊 座 2008/9  特別作品
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       特 別 作 品




     山椒魚    土見 敬志郎



    真夜中の家を出て行く水中花

    日捲りに滝百折を繰り返す

    産声は空の哀しみ花水木

    修業のはじめは山椒魚の水

    躁鬱など呵呵大笑の山椒魚





     青北風    柳  正 子



    青北風や奥から波の匂ひして

    草いきれ抜け出るまでは歩くべし

    海冥し大虎杖の花こぼし

    菖蒲湯に沈みみづみづしき末期

    めまとひの自在に子捕ろ子捕ろかな



  
     富士風穴    畠  淑 子



    水打ちてひそかに睡魔同化する

    無糖紅茶小さな蛇の眠る歳月

    黒羽の椅羅長崎の大ごきぶり

    五月闇水平思考ぴんと張る

    濃あじさい血筋どこまで受けつがれ

 



     はつなつ     吉 本 宣 子


    豊葦原瑞穂の国の沖縄よ

    抱合の神の匂ひや松の芯

    おつとせいの肉の色なる春愁

    瞬きの目玉に生まれおたまじゃくし
                          
    鈴鳴るはこの世の縁(へり)や白遍路

 


     漂泊の色    太 田 幸 子


    青簾押し上げ来たる犬の鼻

    悪役の素顔を見たり麦こがし

    ごはごはのジーパンも来て一夜酒

    さるをがせとは漂泊の色なりし

    水底に乱心見ゆる青みどろ


 

    鯨の唄    土 屋 休 丘


    ツンドラ弛ぶままシャーマンの偏鼓鳴る

    融けねばならぬ狼ツンドラはびちやびちや

    国は大草原バンドネオンと夜明の野火

    梅老ひたり鯨の唄を待ちながら

    神獣鏡ざくざくと桃花盛り
 


    三  春    大 野 黎 子


    お城山胸の高さの春の雲

    お城山あの世の桜真自なる

    駈けて来て愛姫桜に間に合いぬ

    千年の色仄かなり滝桜

    滝桜土に届きて咲きにけり





    消えし人    福 原 栄 子


    こたびだけ黄泉より戻れず彼岸西風

    絵灯籠ひねもす灯すめまひかな

    菩提寺の木立涼しき朝参り

    日に青葉胸に石塊安国寺

    滴りや寂光纏ふ夫の墓
 






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