浮 氷  吉本 みよ子
プロフィール

大正15年松島生まれ
昭和55年  貞山句会入会
昭和60年  小熊座入会
昭和60年  貞山句会退会
昭和63年  小熊座同人
昭和57年  宮城県俳句協会会員
平成4年   現代俳句協会会員 
佐藤鬼房序より(抜粋)
 
 吉本みよ子は目立たない立居振舞いのひとで、いつ句会の席にいたの
か判らない静かさだし、作品も際立って人目を引くといった斬新さはない。
が最も詩の芯となる勘どころを押え、そこからしみじみとした情感を滲み出
してくるような詠み方をしている。失敗の多い新奇よりも確実に物を捉まえるこ
とは勿論大切なのだが、その具象表出がただ手堅いだけで終るのではなく、
作者の感覚の波長として心影の閃きを持つということは、それなりの作者の
持って生れた資質があったということである。技術を先行させて新風を追うも
のからすれば、遅れてように見えながら、実はしたたかに逞しく柔軟な詩性を
抱えこんでいるのが吉本みよ子なのだ。・・・・・・・・・
 おのが孤に籠もるのでなく、孤を通して静かに詩のダイアローグ(対語の世
界)へ向かう姿勢はそれゆえに貴重な存在意義を持つ。
 



      幾重にもおもいを秘めし牡丹切る

      観音の千手にあまる貴船菊

      蛍袋野辺の灯しになりたくて

      輪飾の蛇口何やら神のごと

      郭公や屁理屈などは通さない

      真葛原寝息かすかな起伏あり

      松島の牡蠣殻山の尖りゆく

      穴惑い鮮明にその縞を見す

      梟の涙袋か八日月

      かたくりの揺れて睡魔の遠ざかる

      八月の怒涛へ母の手が伸びる