佐藤鬼房序より(抜粋)
吉本みよ子は目立たない立居振舞いのひとで、いつ句会の席にいたの
か判らない静かさだし、作品も際立って人目を引くといった斬新さはない。
が最も詩の芯となる勘どころを押え、そこからしみじみとした情感を滲み出
してくるような詠み方をしている。失敗の多い新奇よりも確実に物を捉まえるこ
とは勿論大切なのだが、その具象表出がただ手堅いだけで終るのではなく、
作者の感覚の波長として心影の閃きを持つということは、それなりの作者の
持って生れた資質があったということである。技術を先行させて新風を追うも
のからすれば、遅れてように見えながら、実はしたたかに逞しく柔軟な詩性を
抱えこんでいるのが吉本みよ子なのだ。・・・・・・・・・
おのが孤に籠もるのでなく、孤を通して静かに詩のダイアローグ(対語の世
界)へ向かう姿勢はそれゆえに貴重な存在意義を持つ。
幾重にもおもいを秘めし牡丹切る
観音の千手にあまる貴船菊
蛍袋野辺の灯しになりたくて
輪飾の蛇口何やら神のごと
郭公や屁理屈などは通さない
真葛原寝息かすかな起伏あり
松島の牡蠣殻山の尖りゆく
穴惑い鮮明にその縞を見す
梟の涙袋か八日月
かたくりの揺れて睡魔の遠ざかる
八月の怒涛へ母の手が伸びる