小 熊 座 高野ムツオ句集『鳥柱』
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  高野ムツオ句集   『 鳥  柱 』
    


     (『鳥柱』は1993年5月22日 虹洞舎刊)




    皿を置く音家中を朧にす

    残花あり雨の三時の体内に

    誰も蜉蝣夜の鉄橋を渡るとき

    霜の夜の展翅されたる如き都市

    虫の眼の億と集まり冬青空

    ルリタテハなり越冬の子の寝息

    陸前冷夏紙の音立て人歩く

    玻璃に蛾の蒼暗の刻はじまれり

    九月とは鳥のまたたきが溜まり

    冬日の裏を帆船しきり四十代

    子との間に騒然と白鳥が百羽

    いちめんの真葛いちめん見える音楽

    野菊と人家たぶん濁流には見えぬ

    虫籠に昼の青空溜まりしまま

    結氷期子は鍵盤となり眠る

    黙読へしだいに冬の小鳥たち

    黒揚羽三頭ほどの眠気あり

    天牛や山河裂けゆく音止まず

    秋風は無限回転装置なり

    冬もっとも精神的な牛蒡食う

    夜の冷蔵庫開けるな海があふれ出す

    放蕩のはじめに金糸南瓜あり

    寒月光音ありとせば滑り台

    人間の断崖にあり藤の花

    みちのくの残菊鼓動ばかりなり

    雪暗の木々がまぶたを開く音

    木枯に国ありあれば亡命す

    雪の夜の画集展けば鳥柱

    永劫の酸性雨なり兎の眼

    陸奥の国襤褸の中に星座組み






  
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