小 熊 座 2018  高野ムツオ  (小熊座掲載中)
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     2018年 1月    螻蛄の闇     高 野 ムツオ


    胡瓜囓る今日一日の音を立て

    冷飯に動く顳顬戻り梅雨

    啄木も見し船岡の夏の空

    牛は草人は牛喰う日の盛

    七十年前の産声盆の月

    七十年夕焼を溜め青底翳

    攫われし家立上る門火かな

    指先に原爆の日の痩肋

    かく武装して六年か蟬の殻

    すぐ母の鼾や夜の鰯雲

    宵闇や手足があって這って来る

    月の出や命の尽きし乾電池

    攫われし大漁旗へ月上る

    月祀る鉄路も下の枕木も

    原子炉も月見するなり涙して

    層雲の一雲として月に寝る

    まぐわいの眼上げたる月夜蟹

    月の波魚籠より月へ拡がれり

    海溝にも月光溜り死者溜り

    風音に息を合せて稲の花

    微塵子に逢瀬ありけり秋の風

    露の原露の一つにわが目玉

    星の数知っているなり八頭

    屋根の上に夜空のありて林檎パイ

    火口湖を生みしは魔術秋の風

    四方どれも火を噴きし山秋の蝶

    野分まだ雌伏しており水溜り

    胃袋に大梨一個空に星

    後の月海境よりの笛太鼓

    海隔て飢餓の闇あり螻蛄の闇





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