小 熊 座 2026/7   No.494  特別作品
TOPへ  INDEXへ戻る


特別作品

2026.vol.42 No.494

十五年

植木 國夫

  • 東風吹くや山犬の絵を見上げれば
  • げんげんや除染土嚢の重き痕
  • 大堀焼の馬嘶けば木の根明く
  • 隣り人戻らぬ話しらす丼
  • 蘆の角突堤海に蓋をして
  • とろけそうな浪江焼そば卯月波
  • 朧なり美田を船が進みゆく
  • ウクライナの小さき国旗卯波立つ
  • 瓦礫とはズック夏帽ランドセル
  • 原子炉のデブリ蠢く走り梅雨
  • 蟻の列津波来るぞと叫んでも
  • 慰霊碑や白い夏野のただ中に
  • 自販機の百円の水ひろしま忌
  • 小国民たり八月の土ぼこり
  • 帰還困難地曼珠沙華白曼珠沙華
  • 熟れ柿の落ちて人間消えた村
  • 痩せ馬の糞うずたかし天高し
  • 校門の鉄鎖に落馬降りしきる
  • 冬すみれダンプの列を遠巻きに
  • 余震つよし妊婦も子猫もまるくなる

青時雨

松本 廉子

  • 束の間に杉采ばかりが総立ちに
  • 胸の小波海の漣桜貝
  • 終活をまた繰り返す春愁い
  • 亀鳴けり問わず語りの余生にて
  • ペットボトルの水の傾き躑躅坂
  • オルガンのペダルを踏めば地虫出ず
  • 愛鳥週間鳥語人語のとび交って
  • 逆光に透かし見ている蝌蚪の紐
  • 麗らかに試着している鏡かな
  • ソーダ水昭和を唄う口唇で
  • 行ったり来たり燕の数を幾度も
  • 紙重ね紙の捲れや風光る
  • 朝顔の絡み合ってる聞き上手
  • 夏果ての弱音吐くとき小海線
  • 走り梅雨秘密を少し聴きたがる
  • 静かなる海を見ている街薄暑
  • 文章の書き出しに降る青時雨
  • 緩やかに一日が過ぎぬ冷奴
  • 馬鈴薯の花の清楚に満ちており
  • 花山葵流れる水に手を入れて

滝神社

千葉 百代

  • 万緑や歴史を紡ぐ滝神社
  • 境滝鉄奬蜻蛉の楽園地
  • 役場跡といえど植田の風の波
  • 滴りの目洗い池に神宿る
  • キリシタン塚は田沢に青葉闇
  • 導士塚よりの植田を統ぶる風
  • すべりひゆ這ふ雪中行軍鎮魂碑
  • 緑さす三峯神社へ磴上る
  • 六地蔵凛と長壽寺青葉風
  • 老杉の芭蕉の句碑に蟻走る
  • 紙漉きの井戸整のへり草紅葉
  • 大堤密やかに鴨遊びをり
  • 道なりの黄菊八幡神社へと
  • 山神の祠ほつこり桐の花
  • カイエビの棲む寺堰風青し
  • 須川岳を背にさつき咲き農拓碑
  • 姥百合やけものみち往く足尾岬
  • 庚申塔の歴史のこゑを聴き新樹
  • 鬼死骸の巨石に蔓延る野豌豆
  • がまずみの花火産霊ほふすなの大鳥居

灯の潤む辺り

安徳 由美子

  • 花の夜のらくがん舌に融けやすき
  • 桜さくら火点し頃の裏通り
  • 二階からテネシーワルツ桜の夜
  • 春灯なんだかぼんやりした不安
  • そろりそろり桜の闇の濃き方へ
  • 少しづつほどける疲れ花の雨
  • 息詰めて花盛りの森通りけり
  • 口の動き読まれてをりぬ桜の夜
  • 肩でつく大きな吐息花の夜
  • 春の灯の潤む辺りを栖とす
  • 花ぐもり箸にかかりしおぼろ昆布
  • ジヤズ喫茶桜蕊降る日曜日
  • 春夕べ大福餅など頰張つて
  • なにするでなく水を遣るサイネリア
  • たはやすく死はそこにあり朧の夜
  • 黄金色に暮れゆく海や春逝けり
  • 風に身を任せとうすみとんぼかな
  • クレマチス湧水の風身にまとひ
  • 白牡丹溜息をして暮れ残る
  • 心にも重さのありぬソーダ水
 

© kogumaza