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特別作品
2026.vol.42 No.491
寒日和
土見 敬志郎
- 一湾に波たち騒ぐ初明り
- 初日影軋みだしたる船溜
- 初明り礁越えくる片男波
- 初風や羽根張りずめに湾の鳶
- 雪降るや瞼をよぎる妻の声
- 戸袋に妻の声する霜夜かな
- 灯を囲む一人の夕餉寒土用
- 童話生む見知らぬ街に雪降れり
- 放蕩の慣れの果てなる崖氷柱
- 豹紋の陽のとどまりぬ寒夕焼
- 島々の影の膨らみ寒日和
- 月光を吸い込んでゐる崖氷柱
- 新年の太陽あふるる厨水
- 狛犬の阿吽に届く初日の出
- マフラーに包む晩年夕茜
- 目頭に海光太き寒の入
- 大寒やテトラポットの波の音
- 大寒の吾も一片の陽のかけら
- 海彦待つ冬日溜れる橋の上
- 湾波のうねり解けゆく寒の明
淡雪
神野 礼モン
- 冬灯鹿の剝製にうすほこり
- 神の遣いか近づいてくる冬の鹿
- 三輪山を背にしたり冬うらら
- 三輪山の神の宿れる冬紅葉
- 薬師寺の法話の響き冬木の芽
- 薬師寺の東塔の影寒鴉
- 薬師寺の寒禽の声遠ざかる
- 山茶花や白いワンピースの少女
- リモコンを手に転た寝や去年今年
- 初烏一森山飛び立ちぬ
- 生きがいは俳句に尽くと初便り
- 訃の知らせ窓にひとひら春の雪
- 淡雪や永遠の眠りの忘れもの
- 黒真珠ネックレスにも霙れけり
- 冬すみれ黄泉への旅は早すぎます
- 彼の世から見えていますか冬桜
- 神霊のささやきですか春の風
- 分数が得意と分ける春大根
- 毛糸編む五指それぞれの微熱かな
- 冬帽子握手をすれば静電気
ポンポンダリア
竹中 美千代
- 芹摘みの母がこちらを振り向きぬ
- ひたひたと田水張る音窓ごしに
- 沢蟹の動きしところ跨ぎゆく
- スカートをパンツにはさみメダカ捕り
- 汗かきて父の湯船に弟と
- 弟と母を取り合ふ蚊帳の中
- サーフィンのごとく白土を跣にて
- 白よりも白し田舎の白鷺は
- とぐろ巻く蛇百匹が夢の中
- いつせいに水練膝をよく伸ばし
- 教壇に母の持たせしポンポンダリア
- 大波の浮輪に父と弟と
- 青島の星となるまで立泳ぎ
- くねくねと太平洋の水着脱ぐ
- あつぱつぱ母と私と人形の
- あつけなく星になりけりあつぱつぱ
- 学寮に香るよ父の鈴蘭が
- 小鳥来る馬喰小屋の藁稭に
- 幸せかと父は問ひたり赤とんぼ
- まあだだよ茶の花白く匂ふから
連れ立つて寄り道
松岡 百恵
- 流星の消ゆる深みに星生まれ
- 秋分の上野へ田中哲也も来
- 冬構標本箱の積み上がる
- 数へ日のビルに大樹の影移る
- ビル街の冬空機影すぐに消え
- 元朝の海に日の道太し濃し
- 大鷹の羽搏きに今日生かさるる
- 雪明かり父が寝顔を見に来る頃
- 六花また六花彼方の詩嚢より
- 風花や何ともないと嘯いて
- 師はいつも人に囲まれ白障子
- 春障子こどもの頃の吾が誘ふ
- 斑雪異界の空の色うつし
- 耳に棲む電話の声や落椿
- 巡り来る彌榮子の椿きみこの蝶
- 順にみな仏の顔となる辛夷
- 引鶴や見送りてはや待つ心地
- 海側の窓海見えずヒヤシンス
- 蒲公英の絮や余生はこのやうに
- 連れ立つて空へ寄り道飛花落花
空っぽ
須藤 結
- ピーマンは空っぽ怒りは残らない
- 星植える畑もありぬ冬銀河
- 怒りだけある人には無い余寒なる
- 終電や消灯にさくら散る支度
- 桜散る地軸がずれて仕方なく
- 寝返りも愚痴もない骨菜種梅雨
- 霾ぐもり聞いてるふりの上手い人
- 花冷えの遅刻を許して豆爆ぜる
- 桜蕊降るリセットボタンはどこに
- 風薫る二両に溢れる訛かな
- 薄暑なり正しく続くホチキスの音
- 夏痩せに色気の滲むアラビア語
- 白昼夢怒りの靴音整える
- 冷房に怒りのマグマ固めます
- 自由などたやすく掬えり金魚鉢
- そばかすの一つ銀河を動かせり
- 始発駅夕立を置き去りにして
- ウイルスにまた一憂す遠花火
- 母のこと尋ねる訛帰り花
- 仏壇へ珈琲運ぶ夜長かな
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