小 熊 座 2025/9   №484  特別作品
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特別作品

2025.vol.41 no.484

湧水

松本 廉子

  • 湧水を両手で掬う回想も
  • よれよれになる迄ゴッホ観て極暑
  • 昼過ぎの海へと誘う黒揚羽
  • 第二楽章夕べを奏で星涼し
  • 浮き草や風は水面を揺らいでる
  • 夏木立近寄って影増えてゆく
  • つゆ草に顔覗かれて無言舘
  • 気を散らす雑念となり柳絮とぶ
  • 月下美人ゆるみはじめる迄の黙
  • 涸れ沼の俤に咲く合歓の花
  • ゆったりと流れて鮎の川きらり
  • 優しさから逃げ出したくて夏帽子
  • 果てしない返信を待つ敗戦忌
  • 桑の実を嚙んで昔の深き色
  • 向日葵の迷路を抜けて鳥になる
  • 白あじさい昨夜の夢の片心
  • 青時雨逢う半時傘の中
  • 心地よく見渡している青芒
  • 梅の実の青くたっぷり噂あり
  • 縄とびの大地をノックするリズム

紅涙

坂下 遊馬

  • 夕立や「アンネの日記」読みしころ
  • 星月夜誰も歌わぬ反戦歌
  • 揚花火歴史を傍観してをりぬ
  • 縄文のヴィーナスの目に戦場
  • 秋雲の行きつくところガザの空
  • 子を抱きし母の紅涙色なき風
  • ガザの夏アウシュビッツの牢のごと
  • ボブ・ディランの「風に吹かれて」無月かな
  • 十死零生コスモスの影の揺れてゐる
  • 戦争や眠りの深き山椒魚

ロシアがウクライナに侵攻してから三年と五か月が経過したが、終息する気配がない。一昨年十月にはガザ地区でパレスチナ・イスラエル戦争が勃発した。最近もイスラエル・イラン戦争、タイとカンボジアの紛争が始まるなど今もなお、世界中で六十もの紛争が続いているという。世界はカオスの中にある。

テレビのニュースでは、空爆により瓦礫と化したウクライナやガザ地区の市街地が映し出される。飢餓状態のガザの子供達。目を背けたくなるほどの惨状はまさに修羅場である。子供の傍で「世界は何もしてくれない」と紅涙を流す母親の涙が脳裏から離れない。

昭和四十年代のベトナム反戦運動など当時の日本の知識人や市民にはエナジーがあった。残念だが今はただ歴史の傍観者となっている。金子兜太の言葉を思い出す。「人間は性悪なもの」それは死地をくぐり抜けてきた者の直観だろう。

もしかして今は第三次世界大戦前夜かもしれない。不図、「猿の惑星」のラストシーンが過った。

(遊馬)

 

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