小 熊 座 2025/3   №478  特別作品
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特別作品

2025.vol.41 no.479

冬霞

仁藤 さくら

  • 片蔭といふひめやかな片隅よ
  • 逢ひにゆくむかし蝶たる夏帽子
  • さみしくてうさぎのやうに死ぬ月夜
  • 屋根裏に卵割すすむ冬の地球(テラ)
  • ねずみねずみよ瞳に銀漢の灯を点し
  • ずぶぬれのアジア吊るせし暗室に
  • 翅折れて飛ぶ越境の蝶のむれ
  • 風死して国旗粛かに地に垂れり
  • 天蓋といふおほきなる蓋野の百合に
  • 皇帝に王冠皇帝ダリアに死
  • 父の瞳が追ふ初蝶を網に追ふ
  • 剝製の眸にかすかなる熾を見き
  • 冬霞かなたに我の他なるわれ
  • 簡浄の冬待つ夜の植物園
  • 冬蝶も死ぬ日は日輪ひとつなり
  • 置き配にパンドラの箱蟬の午後
  • 泣き崩れるといふ雪崩あり胸中に
  • 夏陽濃しつねに伴走者たり影は
  • 落下する恐怖に冬陽のぼりつめ
  • 散り方は大事椿は身を擲げる

雪解風

土見 敬志郎

  • 待春の渚に拾ふ鳥の羽
  • 一筋の光りを競ふ雪解川
  • 片翅の綿虫よぎる生きるべし
  • 寒明の柱時計が鳴つてゐる
  • 藁くずを食みこぼしたる寒雀
  • 名残雪沖より波の膨れ来る
  • 二月礼者海光胸にあふれしめ
  • ゆるぎなく木の影のあり寒土曜
  • どの墓も雫をなせり班雪
  • 沖よりの波の声々建国日
  • 班雪野に父の残像陽の滲む
  • 靴先に班雪のひかり墓の道
  • 陽炎や迷路となりし墓の道
  • 春耕の鍬の光りや鳶の笛
  • 啓蟄の筵の底が動きだす
  • 春霙傘に受けつつ最晩年
  • 日当たりに動くともなく春の蠅
  • 浮氷響き初めたる天の声
  • 風光るたび牛の目の光増す
  • 補聴器をつけて一歩や雪解風

草蕾

須﨑 敏之

  • 風冷えや花崗岩稜露天掘り
  • 畦焼きのむせびし常陸ことばかな
  • 山眠る琥珀の洋酒醸しつつ
  • 何かしており冬山影を負いかさね
  • 冬山河幾つもの忌を眠らせて
  • カーナビで至る寒水汲むことも
  • 関東寒雲軽身となりて茜差す
  • 焼鳥や千住はけむり易き街
  • 悴めり昭和古色の団子屋に
  • 昭和のガラス冬青空でできている
  • 冴返りつつ括り菜の渓畑
  • 蒼穹にこそ紅梅の後ろ影
  • 探梅路山のたつきの水ながれ
  • 梅咲いてGood-bye を云いそびれたる
  • 梅林の古刹にピアノ調律中
  • 梅咲いて富士見えずなる曽我別所
  • 日脚伸ぶ利根を天井川として
  • 光の春樫の樹魂を隣りとす
  • 春の雪屋根の数だけ一夜だけ
  • 雨水にてきらめく畦の草蕾

出立の子

佐藤 和子

  • 蒲萄狩百態の影さざなみす
  • 嚏一つ糊代の糊はみ出して
  • もう少し気化するつもり穴まどひ
  • こりこりと嚙めば無口な海鼠かな
  • 放射線に胸さらしもうクリスマス
  • 寒紅をひき弱虫を追ひ払ふ
  • 極月や念仏のごと空の鳴る
  • 行く年や無辜の年寄り仮住まひ
  • 初明り盆地の底に生きてゐる
  • さまざまな無沙汰のあれど賀状書く
  • 鬢付け油の香る両国太郎月
  • 花正月縫ひ目のやうにシテの歩幅
  • 扉を閉めてよりの孤独や寒の入
  • 冴ゆる夜のつるりと重き魚の腑
  • 蔵書さへ芥となるや春愁
  • 健やかに受胎告知をみたり春
  • 埴輪とて囁きさうな春の宵
  • 囀や土の命を裏返す
  • 耕人の掘る穴暗きそこ此岸
  • 三月の螺旋階段出立の子
 
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