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特別作品
2025.vol.41 no.479
冬霞
仁藤 さくら
- 片蔭といふひめやかな片隅よ
- 逢ひにゆくむかし蝶たる夏帽子
- さみしくてうさぎのやうに死ぬ月夜
- 屋根裏に卵割すすむ冬の地球
- ねずみねずみよ瞳に銀漢の灯を点し
- ずぶぬれのアジア吊るせし暗室に
- 翅折れて飛ぶ越境の蝶のむれ
- 風死して国旗粛かに地に垂れり
- 天蓋といふおほきなる蓋野の百合に
- 皇帝に王冠皇帝ダリアに死
- 父の瞳が追ふ初蝶を網に追ふ
- 剝製の眸にかすかなる熾を見き
- 冬霞かなたに我の他なるわれ
- 簡浄の冬待つ夜の植物園
- 冬蝶も死ぬ日は日輪ひとつなり
- 置き配にパンドラの箱蟬の午後
- 泣き崩れるといふ雪崩あり胸中に
- 夏陽濃しつねに伴走者たり影は
- 落下する恐怖に冬陽のぼりつめ
- 散り方は大事椿は身を擲げる
雪解風
土見 敬志郎
- 待春の渚に拾ふ鳥の羽
- 一筋の光りを競ふ雪解川
- 片翅の綿虫よぎる生きるべし
- 寒明の柱時計が鳴つてゐる
- 藁くずを食みこぼしたる寒雀
- 名残雪沖より波の膨れ来る
- 二月礼者海光胸にあふれしめ
- ゆるぎなく木の影のあり寒土曜
- どの墓も雫をなせり班雪
- 沖よりの波の声々建国日
- 班雪野に父の残像陽の滲む
- 靴先に班雪のひかり墓の道
- 陽炎や迷路となりし墓の道
- 春耕の鍬の光りや鳶の笛
- 啓蟄の筵の底が動きだす
- 春霙傘に受けつつ最晩年
- 日当たりに動くともなく春の蠅
- 浮氷響き初めたる天の声
- 風光るたび牛の目の光増す
- 補聴器をつけて一歩や雪解風
草蕾
須﨑 敏之
- 風冷えや花崗岩稜露天掘り
- 畦焼きのむせびし常陸ことばかな
- 山眠る琥珀の洋酒醸しつつ
- 何かしており冬山影を負いかさね
- 冬山河幾つもの忌を眠らせて
- カーナビで至る寒水汲むことも
- 関東寒雲軽身となりて茜差す
- 焼鳥や千住はけむり易き街
- 悴めり昭和古色の団子屋に
- 昭和のガラス冬青空でできている
- 冴返りつつ括り菜の渓畑
- 蒼穹にこそ紅梅の後ろ影
- 探梅路山のたつきの水ながれ
- 梅咲いてGood-bye を云いそびれたる
- 梅林の古刹にピアノ調律中
- 梅咲いて富士見えずなる曽我別所
- 日脚伸ぶ利根を天井川として
- 光の春樫の樹魂を隣りとす
- 春の雪屋根の数だけ一夜だけ
- 雨水にてきらめく畦の草蕾
出立の子
佐藤 和子
- 蒲萄狩百態の影さざなみす
- 嚏一つ糊代の糊はみ出して
- もう少し気化するつもり穴まどひ
- こりこりと嚙めば無口な海鼠かな
- 放射線に胸さらしもうクリスマス
- 寒紅をひき弱虫を追ひ払ふ
- 極月や念仏のごと空の鳴る
- 行く年や無辜の年寄り仮住まひ
- 初明り盆地の底に生きてゐる
- さまざまな無沙汰のあれど賀状書く
- 鬢付け油の香る両国太郎月
- 花正月縫ひ目のやうにシテの歩幅
- 扉を閉めてよりの孤独や寒の入
- 冴ゆる夜のつるりと重き魚の腑
- 蔵書さへ芥となるや春愁
- 健やかに受胎告知をみたり春
- 埴輪とて囁きさうな春の宵
- 囀や土の命を裏返す
- 耕人の掘る穴暗きそこ此岸
- 三月の螺旋階段出立の子
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