小 熊 座 2025/2   №477  特別作品
TOPへ  INDEXへ戻る





     2025/2    №477   特別作品



      寒 林      大 澤 保 子


    朝焼けが雑木林へ広がり来

    日の中を雨降つてをり山椒の樹

    川音に磨かれてゐる蔦かづら

    黄落の明るさに在り殉教碑

    教会まで銀杏落葉の径つづく

    折鶴を一羽ふやして夜の長し

    露の世に生れて泉穂(いづほ)と名付けらる

    北天へ今も散りつぐ大銀杏

    山畑に大根干す景見づなりぬ

    農を継ぎ田仕舞の煙上げてゐる

    裏川へ梯子下ろして神の旅

    沖縄のスコーン購ふ冬の街

    神留守の径に大きな水溜り

    売地札へ急降下せり冬鴉

    神の留守砂利満載の車過ぐ

    山現れて又山消して雪降れり

    記念樹のからまつは今寒林に

    寒林となり落葉松の退りゆく

    語らんとなほ寒林へ深入りす

    雪となる日々林檎の名は「はるか」



      谷戸の冬      布 田 三保子


    鎌倉は祷りの地なり冬紅葉

    谷戸の奥時雨れて薬師如来像

    本堂の澱む匂ひや冬の百舌鳥

    鞘阿弥陀の気息や白き帰り花

    水音を堰き止めてゐる朴落葉

    目も鼻も分からぬ地蔵冬の蝶

    神の留守余韻の円き鐘の音

    冬ざるる灯明一つ矢倉仏

    尊氏の墨跡掠れ谷戸の冬

    寒風や井戸の底より鬨の声

    土牢の八畳の闇冬椿

    口笛で龍神を呼ぶ寒き井戸

    煤跡の著き竈や石蕗の花

    大黒柱語りだしたる炉の宴

    八咫烏の裔なり寒禽追ふ鴉

    新蕎麦を始めましたと金釘字

    叱る間も鋏休めず松手入

    前撮りの新郎新婦真葛

    冬雲を縁取るひかり由比ガ浜

    鳶の声風速五メートルの小春



      日 常      古 川 修 治


    ポケットの中に迷いし花吹雪

    除夜の鐘住宅街に人気なし

    何重にもマフラー巻いて通学路

    食卓に盃並べお正月

    夜明け前よりの強風山眠る

    手を取りて石段上る七五三

    青空をゆっくり見上げ息白し

    満月を正面にして深呼吸

    五月雨の土を踏みつけ球児かな

    午後よりの風に揺られてチューリップ

    花筏後追いかけながら散歩する

    キッチンに忘れたままの缶ビール

    夜更より不意に鳴り出す扇風機

    風鈴に目覚める白い猫の耳

    水しぶき残し北へと渡り鳥

    ゆっくりと滴るシロップかき氷

    青空と湖とあり紅葉山

    日中は山に潜みし雪女

    運転の視界に不意に夕時雨

    雪達磨転がしていく子が一人





 
パソコン上表記出来ない文字は書き換えています
  copyright(C) kogumaza All rights reserved