小 熊 座 2023/10   №461  特別作品
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     2023/10    №461   特別作品



      焼 栗        鯉 沼 桂 子


    またひとつ路地の抜け道いわし雲

    川岸の駐車場の桐の花

    言い訳をぽんと放ちて額涼し

    しろがねのこれが足あと蝸牛

    快活なくるぶし過ぎる夕立前

    山百合の記憶たどれば廃線路

    背ナ割りて生きた証と蝉の殻

    実はねとしがらみ曝す竹似草

    夕立の嘉右衛門町に軒を借る

    焼栗匂ふヴァチカンのパウロ像

    弾かれて前の世へとぶ蓮の実

    鉛筆を削るナイフの音さやか

    不規則に裂ける充実ざくろの実

    団栗の転がる先はきのふへと

    口あける口腔模型晩夏光

    筑紫嶺の濃くなる小鳥来る頃に

    こほろぎの最初のこゑがポストから

    晩夏光人みな影をとり戻す

    春愁ひ使はぬままの色鉛筆

    きさらぎの磧に拾ふ詩の破片



      式根島        曽 根 新五郎


    天水で元旦の顔洗ひけり

    海神へ一声あげる初日の出

    潮引いて引いて渚の淑気かな

    初漁の太平洋の船の水脈

    黒松の式根松島初景色

    鳥籠の眼白へ眼白来て遊ぶ

    桟橋に竿の並びし日永かな

    民宿の一品明日葉料理かな

    飛び火せし火種のやうな溶岩つつじ

    一筋の海底からの海女の息

    飛魚の姿づくりの飛ぶかたち

    七夕の星降る島の湯壺かな

    新涼の渚の砂を墓へ敷き

    豊の秋太平洋の魚信かな

    招きては見送る島の踊かな

    島節へ島節つなぐ良夜かな

    裏返す冬青空のくさやかな

    鶚来て青空の青ひきしまる

    産卵の寒満月の宝貝

    年惜しむ渚の砂のひと握り



      草雲雀        宗 像 眞知子


    薄紅葉こほろぎ橋も今頃は

    秋麗ら触るゝ汐干の大鳥居

    露けしや風紋の砂ざくざくと

    黒板の賢治の伝言小鳥来る

    秋蝶やふたりの旅を重ね来て

    荻の声絶筆となる紀行文

    昼ちちろ黄泉平坂一人旅

    コスモスや覚悟なきまゝ寡婦となり

    これ以上何に祟らる厄日なる

    銀木犀思い出せないパスワード

    草雲雀一緒に泣いてくれますか

    静けさに押し潰される水蜜桃

    抽斗に旅の名残の木の実かな

    花芒かき分けれどもかき分けれども此岸

    そのこゑを色なき風に乗せて来よ

    こぼれ萩一気に夜を連れて来る

    忘れ物とりに来さうな夕月夜

    秋薔薇ワンプレートの朝餉かな

    不器用な音なる瓢の笛ふたつ

    新しき歳時記きしきしと夜長



      団 子        千 葉 悦 重


    蛇田より熱き水出る海の日も

    新蕎麦や苦手の一つに券売機

    新豆腐今日から何でも二人分

    母は今いづこの星に天の川

    いぼきゅうり箱に並べて朝仕事

    墓までの道のコスモス抱き起こす

    玉蜀黍の苦手な母や今は亡し

    目で語る母の言葉や緑の夜

    四年生ビニールプールに足余る

    緑蔭に自転車立てて紙芝居

    盆踊り赤い鼻緒に挿げ替えて

    公園に移動図書館夏休み

    山ガール入山届を霧の朝

    窓開けて初秋の風入れにけり

    父母に水鉄砲の試し撃ち

    蟷螂の御仏のごと手を合わす

    トロ箱に小蠅渦巻く魚市場

    早朝の窓蟷螂のうすみどり

    渓谷の奥より団子緑濃し

    猫じゃらし朝陽を孕み道祖神





 
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