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 小熊座・月刊


   2023 VOL.39  NO.459   俳句時評


     AIと俳句

                         
及 川 真梨子


  以前の私の時評は、五月号で「主観客観私感(4)」に続く、として荒っぽく終わ

 っておりましたが、タイムリーに書きたいことができてしまったので、今回は番外編

 ということで表題について書きたいと思います。

  ですます調で書いているのは、実は編集後記用で書き始めた内容なのですが、

 さすがに中身が専門的で長くなってきたので、折もよくこちらに移してきた次第で

 す。気分を変えてお付き合いください。

    **********

  小熊座七月号の編集後記で、AIと俳句について少し触れました。すると、その

 文章を書いて発表される前に、とある新聞記事がメールで送られてきました。AI

 俳句について書かれた記事です。タイミングに驚くと共に、思うことが色々湧いて

 きたので、書いていこうと思います。(栗林さん、その節はありがとうございま

 す。)

  AIと俳句という話題だと有名なのが、北海道大学が開発した俳句を読む人工知

 能「AI一茶くん」です。不勉強な私は思い出しもしませんでしたが、なんだかニュ

 ースで見た気もします。小林一茶や高浜虚子などの十二万句を深層学習(ディープ

 ラーニング)によって学習させており、一秒間に約四〇句の俳句を自動生成しま

 す。実際に俳人と句会対決をし、平均点では劣ったものの、AIが〈かなしみの 片

 手ひらいて 渡り鳥〉で最高点句を取りました。
 
 他にもAIと俳句で調べてみると、ネットには俳句自動作成のHPもあります。仕組

 みの詳細は分かりませんが、単語をランダムで並べるようなものだと思います。

  また、AIによる「選句」技術も開発され、俳句の型を統計的に分析するようなも

 のだそうです。

  一方、チャットGPTで俳句の「鑑賞」を行うことも可能です。第一義的な意味

 (読んですぐ分かる情景)を説明し、使われている言葉から全体のイメージを提示

 し、語の関連性を膨らませている感じでしょうか。断定をせず「わからない」とAI

 が正直に書いてきますので、多少ずれていても読む方が許容できる語り口です(武

 良さんのnoteを参考にした簡易な感想です。)。

  俳句とAIということを考えるとき、すぐに出てくる感想はあります。たかがAI

 が作る俳句なんてお粗末なものさ、と軽視する見方、いや十二分に人間に取って

 代わる実力と可能性がある、恐れなければならない、という見方、あるいは、上手

 に使って人も進歩していこう、という考え方でしょうか。

  私が思うところはいくつかあります。

  一つはAIの深層学習の学習元の問題です。例えば「AI一茶くん」は「小林一茶

 や高浜虚子などの十二万句」を学習したといいます。当然作り出す俳句の語彙、

 パターンはそれらに偏ってくるわけです。

  これからさらに作者を固定せず、あらゆる俳句を学習させれば、それこそ新興

 俳句や無季句、ネットに浮かぶ有象無象のアヤシイ俳句を学ばせれば、それに

 あったAIが誕生するのです。

  例えばAIの話題だと、AI美空ひばりが紅白で歌ったことや手塚治虫のAIが作

 ったマンガが出版されたことが記憶に新しいです。故人の映像を学ばせてしゃべる

 サービスも実用に耐えうるようになってきています。一人の人間のパターンのみ学

 習させれば、その作者の傾向を模倣した作句が可能なAIとなるのでしょう。

  現存のチャットGPTでは嘘をつくことが指摘されています。それは参照するデー

 タが膨大すぎて真実も嘘も、偏った信条も平均的な考えもすべて情報源としてしま

 うからです。また特定の政党を支持しないなど、開発側のバイアスや調整も指摘さ

 れています。

  しかし実際の開発現場を考えれば、現状主流の有季定型を主に学ばせるでしょ

 う。「流派」をどう学習させるか(そもそも流派なぞありませんが)。問題はありま

 す。

  二つめは、AIと俳句というものの親和性が高すぎることです。

  素人が適当に並べた語句ですら、そこそこの俳句となる可能性があるのです。

 ルールや一定の型がある俳句は、パターンをAIに教えることで、早い段階で完成

 度の高い句を作るようになると思われ、実際にそうなっています。

  また、俳句の「鑑賞」との親和性も高いです。詩情を解せずとも、語から連想され

 る曖昧さで話を展開していけば、そこそこの鑑賞は書けますし、むしろ、人間が拒

 否するようなAIの飛躍した論調から、ごくまれに、人の書けなかった深い鑑賞と受

 け取られるものができるでしょう。

  俳人の感覚の中にある二物衝撃の強弱、語の近さの調整、鑑賞の結論におけ

 る季語の優位性を設定すればかなりのものができると思います。

  しかし、最大の問題は「芯」がないことです。

  例えばAI生成のイラストを見ると、調整初期では指が何本もあったり、骨格がゆ

 がんだり、人工物の構造を無視した不気味な絵を生み出します。これは人の骨格

 があり、物理があり、建物の構造があり、という現実世界をAIが踏まえられないか

 らです。「ここに影のような筋をつければそれらしく見える」の連続で画面が構成さ

 れています。

  これに、学習データの「共食い」の事象もすでに発生しています。共食いとは、

 AIが作った生成物をAIが深層学習に取り入れ、できあがった生成物の質や意味

 が低下することです。例えば膝が何カ所もあるAI絵を、次のAIがこれでいいんだ

 と根拠にしたら、次の絵がさらにグロテスクになってしまいます。

  その危うさのある内容を無知な、あるいは感度の高い人間が参照していけば、

 人間側の感性にも影響がでるのではないでしょうか。

  AIの性能が素晴らしく見えるのは、人間側が細かな違和感を無視し、楽しんで

 受け取る能力が高いからです。使う側の愛情がそのまま反映されるシステムとも

 言えるでしょう。

  将棋、囲碁で素晴らしいAIが開発されたのは、開発者の並ならぬ熱意が続けら

 れたからでしょう。俳句におけるAI開発にそれがあるのか、現状の俳句界にそれ

 ほどの魅力があるのか、それが実は問題なのかもしれません。




 
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