小熊座二十周年記念俳句大会 入選句集

高橋睦郎 選

 

特選 第一席    蚕豆を食べると悲しみが来さう      中井 洋子

特選 第二席    蝉渇く道の彼方のオリンピア       増田 陽一

特選 第三席    炎天の杭じりじりと殴打まつ       篠原  飄

*(じりじり=表記はくの字点)

入選句

凌霄花掃けば襲ひし花の影        橋本 和行

極暑なり影ちりちりと舞ひ上がる     菅  邦子

慈雨百鬼もんどり打って水平線      佐藤 玉鴻

夕かなかなうしろの家の鯨幕       八島 岳洋

太陽が熟れて噴き出す子かまきり     土屋 遊蛍

峰雲にひらくノートの青罫線       橋 正子

朝もぎの茄子指紋をつけて来る      山中 西放

白い蝶くる炎天はがらんどう       白田喜代子

白鷺の脚いっぽんは雲へおく       白田喜代子

柘榴百生り青空に罅走る         山本  源

馬の尻きれいに二つ騎手の汗       小笠原風箕

黄泉の父来て始まりぬ庭花火       土屋 遊蛍

苗代に火の匂ひする人入る        小笠原風箕

死神は跣足でそつと来るのかな      小笠原風箕

燦爛と蛇泳ぎくる嬉しさよ        鈴木八洲彦


 宇多喜代子 選

 

特選 第一席    波立てず蛇の眼力泳ぎ切る        鈴木 慶子

特選 第二席    使はれて表も裏も蝿叩          中井 洋子

特選 第三席    滝の音拳に力入りけり          佐藤 みね

 

入選句

炎天へ小窓の開いて蔵座敷        武田香津子

夏木立木立の奥の禁猟区         小笠原弘子

朝もぎの茄子指紋をつけて来る      山中 西放

最上川大根一本流れ来る         大池 長人

行人に去来するもの秋の風        佐伯  秋

西の日は北に寄つたり半夏生       光成 高志

田草取り熱き田螺に触れにけり      白田喜代子

はみだして野犬なりまた冬くるか     土屋 休丘

裏木戸は猫の入口竹の秋         尾形 昭子

蓮の実より地底の声の聞えけり      平松彌榮子

また来ると言ひ風花にまぎれけり     八島 岳洋

艦檣の傾く映像夏来たる         畠  淑子

夾竹桃咲いても咲いても暗きかな     山本  源

朝曇り家を揺らして硝子拭く       田中 賀子

聳えたつ二百十日のごはん粒       上野まさい


 

大木あまり 選

 

特選 第一席    耳鳴りの星降るごとき重信忌       石田よし宏

特選 第二席    肉球という秋冷に近きもの        渡辺誠一郎

特選 第三席    人間がいばり過ぎていて炎暑       大野 黎子

入選句

夏休み羽化の記録を頼まれて       永野 シン

少年は秋風をポケットにしのばせて    菅  邦子

炎天にバケツリレーの母のこゑ      浜谷牧東子

花いちもんめ行方知れずの芥子坊主    小笠原弘子

真夏日や細き母の手握るだけ       大平 絹子

モノクロの昭和へ飛べり蚊喰鳥      土屋 遊蛍

朝もぎの茄子指紋をつけて来る      山中 西放

生涯を急がぬ亀の子にかがむ       山崎 正子

*(かがむ=表記は漢字・足偏に局)

日傘回してくれないの蛇になる      白田喜代子

夕顔の花ほど濡れて仏師たり       土屋 遊蛍

向日葵と肩ふれ合へば同志なる      郡山やゑ子

ガレの壺にて羽化したる鳳蝶       田中 一光

馬の尻きれいに二つ騎手の汗       小笠原風箕

黙つてはをれぬ夏帽は真白        武田 美代

捨て猫に名前つきたる夏休み       山家みち子

 


増田まさみ 選

特選 第一席    父となら虹を毀しに西の空        浪山 克彦

特選 第二席    吃りつつきばなこすもす剪つてしまふ   鈴木八洲彦

特選 第三席    春陰の蓋濡れてをり火消壷        八島 岳洋

 

入選句

炎昼の身におぼえなき涙出ず       菅  邦子

短夜の夢アの段を踏み外す        沢  草二

影踏みの子が影になる葱坊主       土屋 遊蛍

父の声出そうな日記曝しけり       佐藤 みね

わがために凍れる湖となりにけり     大場鬼奴多

鳥渡るかな痛みなき傷の色        松本 文子

青林檎人を恋ふるに刃物持つ       渡辺 規翠

八月の祈り膀胱形蜂の巣         須崎 敏之

この世から蝿取草に歩み寄る       青野三重子

蛍火を壜詰にして失語の夜        秋月 和雄

法螺吹きの弔旗がしゃなり虹とあり    平川よし美

逃水の逃げる途中の地下墓地       八島 岳洋

*(地下墓地=ルビ・カタコンベ)

葡萄つまみ抜き差しならぬことを言う   下山 慶子

兄さんは入道雲へ行ったきり       土屋 遊蛍

狼の己が谺に応へけり          佐伯  秋


高野ムツオ 選

 

特選 第一席    老いて読む奥の細道行く秋ぞ       大池 長人

特選 第二席    姉の帯ほどけて曼珠沙華のみち      平松彌榮子

特選 第三席    凌霄花中に祖母棲み母が棲む       亀山連太郎

 

入選句

夕焼けは十六羅漢の吐息とも       太田 幸子

少年は秋風をポケットにしのばせて    菅  邦子

足もとの日暮となりし韮の花       松本 笹枝

少年に鱗生まるる油照          土屋 遊蛍

人界に人の声する水引草         佐伯  秋

のうぜんは明日のわたしと逢っている   早乙女未知

蚕豆を食べると悲しみが来さう      中井 洋子

轡虫死んで魔王になるといふ       大場鬼奴多

万緑に耳澄ましゐる無言館        土屋 休丘

あおみどろ裏側に伊弉冉尊        白田喜代子

うろこ雲早や潮騒に乗つて来し      吉本みよ子

蜊蛄をつまみあげれば虹が立つ      山本  源

真葛原なり段ボール箱の中        山本  源

菜の花になって時間をやりすごす     小川 あや

皿に皿重ね八月十五日          畠  淑子


木村えつ 選

 

特選 第一席    ふくろうの森は深海少年期        土屋 遊蛍

特選 第二席    ガレの壺にて羽化したる鳳蝶       田中 一光

特選 第三席    狼の己が谺に応へけり          佐伯  

 

入選句

見えし日のありし倖せ夏椿        星  和貴

柘榴百生り青空に罅走る         山本  源

幻灯の昔蚊帳吊草でいる         渡辺 規翠

人間として雪渓の端を踏む        大澤 保子

高西風や海豚に遊んでもらへる日     土屋 休丘

紙漉女死して寒暮の窓一つ        大池 長人

青林檎人を恋ふるに刃物持つ       渡辺 規翠

鬼房に逢うまで走る羽抜鶏        秋山 笹舟

青すすき木下夕爾の忌なりけり      佐木とみ子

冠をつけて鳥ゆく半夏生         佐木とみ子

寂しいと顔小さくなる雪女        大場鬼奴多

この世から蝿取草に歩み寄る       青野三重子

河童忌のいそつぷばしを渡りけり     渋谷多佳子

人間ゆふぐれて白煙の晩夏        秋月 和雄

空蝉の真空からは兵の声         浪山 克彦


 越飛彈男 選

 

特選第一席    白鳥に届け届けと子のピッコロ      大森 知子

特選第二席    天の川のぼりはじめし自衛艦       菊地乙猪子

特選第三席    日傘回してくれないの蛇になる      白田喜代子

 

入選句

太陽が熟れて噴き出す子かまきり     土屋 遊蛍

夏帯を締めひと雨の山河かな       佐木とみ子

父の声出そうな日記曝しけり       佐藤 みね

霧に現れ霧に消えたる登山帽       澤口 和子

艀より艀へころげ夏帽子         渡辺 智賀

まひるまの鬱を紡いで紅空木       渡辺 智賀

柘榴百生り青空に罅走る         山本  源

気丈かな毀れる前のシャボン玉      橋 森衛

船乗りの神に成り切る夏神楽       長田わくり

誌齢祝ぐ水引草を束ねたる        角田 はる

姉の帯ほどけて曼珠沙華のみち      平松彌榮子

さすらふや青葛原は天の熱        榊原 伊美

この世から蝿取草に歩み寄る       青野三重子

法螺吹きの弔旗がしゃなり虹とあり    平川よし美

葡萄つまみ抜き差しならぬことを言う   下山 慶子


堀米秋良 選

 

特選 第一席    桔梗をぽんと咲かせし志功の絵      吉本みよ子

特選 第二席    はつたいや山あるかぎり争へる      上野まさい

*(はったい=表記は漢字・麥繞に少)

特選 第三席    紙漉女死して寒暮の窓一つ        大池 長人

 

入選句

春蝉や越訴の村の義人の碑        田中  満

影踏みの子が影になる葱坊主       土屋 遊蛍

大欠伸だけの動きの河馬の夏       光成 敏子

使はれて表も裏も蝿叩          中井 洋子

艀より艀へころげ夏帽子         渡辺 智賀

海人の深まなざしや沖縄忌        大澤 保子

*(海人=ルビ・うみんちゅ)

囀りも熄みマンモスの溶け具合      土屋 休丘

雲湧くやギリシャ赤絵の馬と蝉      増田 陽一

晩年を刻む漏刻冬銀河          八島 岳洋

出羽の国煮て言霊を紡ぎ出す       佐竹 伸一

皿に皿重ね八月十五日          畠  淑子

涙痕のやうな蛞蝓阿佐緒歌碑       伊藤 杜夫

活断層の上に住まへり雁渡る       阿部サタエ

聳えたつ二百十日のごはん粒       上野まさい

逃水の逃げる途中の地下墓地       八島 岳洋

*(地下墓地=ルビ・カタコンベ)


 鈴木慶子 選

 

特選 第一席    鬼房に逢うまで走る羽抜鶏        秋山 笹舟

特選 第二席    ふくろうの森は深海少年期        土屋 遊蛍

特選 第三席    皿に皿重ね八月十五日          畠  淑子

 

入選句

動き出す老いの華やぎ蓮見舟       安斉 中子

萍の乱れは風の子守唄          太田 幸子

逃水の先は浄土か夢幻能         菅野 茂甚

少女柿食ふとりたての魚のごと      大場鬼奴多

モノクロの昭和へ飛べり蚊喰鳥      土屋 遊蛍

今宵の月娶るは寺の阿弥陀佛       大池 長人

國の字を習ひし頃や夏休み        大嶋 邦子

影踏みの子が影になる葱坊主       土屋 遊蛍

御旅所の少年美しきのどぼとけ      土屋 遊蛍

盆の爺さま鬱金の手妻なさいます     佐伯  秋

*(爺=ルビ・ぢ)

田の神と呼ばれて処暑の男松       田中 一光

海人の深まなざしや沖縄忌        大澤 保子

*(海人=ルビ・うみんちゅ)

紙漉女死して寒暮の窓一つ        大池 長人

あの夏の日の丸弁当火打石        佐木とみ子

大寺を容れて一山蝉しぐれ        後藤 渓石


 千田稲人 選

 

特選 第一席    万緑に耳澄ましゐる無言館        土屋 休丘

特選 第二席    雲湧くやギリシャ赤絵の馬と蝉      増田 陽一

特選 第三席    晩年を刻む漏刻冬銀河          八島 岳洋

 

入選句

勾玉は胎児のかたち夕焼雲        小笠原弘子

モノクロの昭和へ飛べり蚊喰鳥      土屋 遊蛍

父の声出そうな日記曝しけり       佐藤 みね

ガレの壺にて羽化したる鳳蝶       田中 一光

蓮の実のひと部屋ごとの夢世界      平松彌榮子

サバンナの風になる夢羽抜鶏       永野 シン

行く春の右目を掴むロダンの手      水月 りの

山を指し海へ振り抜く踊りの手      森  黄耿

土砂降りの河童忌となり偏頭痛      阿部 流水

死ねば溶けてはるかな春の海へゆく    土屋 休丘

波立てず蛇の眼力泳ぎ切る        鈴木 慶子

涙痕のやうな蛞蝓阿佐緒歌碑       伊藤 杜夫

喜寿という静かな節目含羞草       尾形 昭子

兄さんは入道雲へ行ったきり       土屋 遊蛍

肅肅と蟻が地軸を引く真昼        浪山 克彦


 佐藤きみこ 選

 

特選 第一席    姉の帯ほどけて曼珠沙華のみち      平松彌榮子

特選 第二席    銀行に酢のさみしさの夏祭        中村 孝史

特選 第三席    御旅所の少年美しきのどぼとけ      土屋 遊蛍

 

入選句

草いきれ魚籠に騒ぎの起りけり      関根 昌次

やませきて夏の扉を閉ざしゆく      阿部宗一郎

誘蛾灯遊び呆けし日の匂ひ        橋 昭子

日傘回してくれないの蛇になる      白田喜代子

船乗りの神に成り切る夏神楽       長田わくり

二の腕の森の匂ひや祭笛         松本 文子

青林檎人を恋ふるに刃物持つ       渡辺 規翠

肌脱の背中に目玉あるごとし       森  黄耿

坐ることを拒否する椅子や雲の峰     田中 哲也

陸貝も海恋しけれ晝霞          土屋 休丘

富士五合目の大き消印夏見舞       吉本みよ子

蝉時雨ダム湖は永遠の乙女なり      古山のぼる

手を握るから獣めく大花火        秋月 和雄

聳えたつ二百十日のごはん粒       上野まさい

夕焼の話が尽きぬ夜の鳩舎        浪山 克彦

 

  

*(パソコンに正字のないものは俗字にし、表示不能なものは補足をしました。)

 

2004年10月16日


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