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 小熊座・月刊 
  


             高野ムツオ主宰

    三賞(蛇笏賞・読売文学賞・小野詩歌文学賞)


             記念祝賀会記


                                         2014.vol.30 no.354



        東北の晩夏きらめく

                                 根 木 夏 実


   七月号の誌上にて、ムツオ主宰の三賞祝賀会を行うことが正式に発表された。祝賀会

  とは、いったいどのような感じなのだろうかと思いを馳せる一方、小熊座に入会して約二

  年、ちゃんと投句するようになって実質一年の自分が、はたして参加しても大丈夫なのだ

  ろうかと思案した。そのため今年の鬼房大会の際、連絡先を交換していた千倉由穂さん

  に参加の有無を訊ねてみた。本人からは、参加すると返事があった。きっと二人で行け

  ばこわくない等と言っていると、花束贈呈役を仰せつかった。それ故、少なくとも前日から

  落ち着きがなかったのはここだけの話である。

   祝賀会当日、郡山から電車に乗り仙台駅で由穂さんと無事に合流を果たす。花束贈呈

  に抜擢されたこともあり、普段は眼鏡を着用しているのだが珍しくコンタクトで参加した。

  祝賀会には、主宰に縁のある俳人の方々をはじめ、出版業界の方々もいらっしゃった。

   立食形式で料理がふるまわれると各々のテーブルごとに話が盛り上がる。誠に申し訳

  ないながら、ステージ上での祝辞の内容の大半が後ろの席では聞き取れない感じであっ

  た。テーブルには、俳句甲子園の舞台でも顔を合わせた水沢高校を指導されていた鎌

  倉道彦さん、仙台白百合の由穂さん、そして一関二高の私が当時の思い出を振り返って

  いた。その話の中で、どうやら私は高校一年生のとき既に由穂さんと出会っていたらしい

  と知った。小熊座で再会することになるとは、これが宿命のライバルという存在だろうかと

  改めて感じた。会の終盤、小熊座集作品鑑賞を担当していらっしゃる吉野秀彦さんとお

  会いすることができた。私の句を取り上げて頂いたお礼を直接言いたかったため、お話

  できて嬉しかった。小熊座を通して、私の俳句の世界観や人との繋がりが広がっていると

  感謝している。

   人生初の祝賀会でこの度の三賞受賞を一緒にお祝いできたことは、私にとって素晴ら

  しい経験と思い出になった。ムツオ主宰には、今後も元気に俳句を詠み続けて頂き、優

  しく厳しくご指導して頂きたい。主宰のご活躍に負けないよう私自身も、小熊座の方々と

  更に精進していきたいと思う。最後になりますが、三賞受賞誠におめでとうございました。


                





        十七音の沈黙―萬の翅


                              坂 下 遊 馬


   残暑の日差しが強い八月三十一日、「高野ムツオ氏三賞受賞を祝う会」が仙台市宮城

  野区の仙台ガーデンパレスで開催されました。高野主宰の第五句集「萬の翅」が、本年

  の二月に読売文学賞詩歌俳句賞、四月に小野市詩歌文学賞と蛇笏賞を受賞、その業

  績を祝福する会には、県内外の招待者や県俳句協会、小熊座関係者など約百六十名が

  出席しました。

   最初に発起人を代表して「きたごち」の柏原眠雨主宰から「宮城では昔から協会が違っ

  ても仲良くやってきた、今日は受賞をみんなで祝いたい」と開会の挨拶がありました。来

  賓祝辞では「草樹」の宇多喜代子代表が、句集『萬の翅』百句抄から句を取り上げ、震災

  後の主宰の句の変化についての感想がありました。また、奥山恵美子仙台市長から「教

  育長時代、高野さんが市立中学校の校長先生で、部下だったことを今後吹聴したい」と

  の祝辞があり、会場の笑いを誘いました。続く花束贈呈では、日ごろニヒルで通す主宰も

  若手女性二人からの花束に破顔一笑でした。主宰の挨拶では、「師と仰いだ阿部みどり

  女、佐藤鬼房両氏も受賞している蛇笏賞を受賞できたことはうれしい。一つの県から三

  人も受賞者が出るのは珍しいこと。もっと東北には受賞してもよい人がいるのではないか

  ……受賞は一緒に俳句を作り続けた皆さんのおかげです」と話されました。

   今回の三賞受賞は、三・一一というカタストロフィを契機に俳句の新たな可能性がいみ

  じくも証明された形となりました。とりわけ、俳人受賞者が十数名と少ない読売文学賞の

  受賞は、六十五回を重ねる賞の歴史の中で、『萬の翅』の一句一句が如何に衝撃的であ

  っ
たかを思わせます。

   読売文学賞の選考委員である高橋睦郎氏は、選評で、迫る大災の衝撃と題し「三・一

  一大災という新千年紀の大事件に真に対応しえたのは、ことを詩歌に限っていえば、詩

  でも短歌でもなく俳句ではないだろうか。理由は五七五なる窮極最短の定型が含み込ま

  ざるをえなかった沈黙の量にあろう」と述べていますが、まさに言い得て妙。

   最後に、句集『萬の翅』百句抄から一句、 〈みちのくの今年の桜すべて供花〉 実は私

  には三・一一の年の桜が思い出せず、モノクロームの風景だけがいまでも印象に残って

  います。





        『萬の翅』光る

                              草 野 志津久


   八月三十一日は、夏の終りを思わせる涼やかな宵になった。我等がムツオ先生の三

  賞受賞に敬意を表して、今夜は和服に威儀を正そうと決めた。涼風にほっとしつつ藍の

  太縞の羅に、『萬の翅』にちなんだ虫籠を刺繍した帯。翡翠の帯止めを雫に見たてて締

  める。  精一杯のお祝いの気持を、主宰は解ってくださるだろうか?四時、会場の仙台

  ガーデンパレスには、すでに三々五々となごやかに人が集い、華やかで暖かな空気が流

  れている。まだまだ新人の私はお顔と名前が一致せず、ただキョロキョロするばかり。や

  がて、来賓の祝辞が始ると、ユーモアを交えた、深く、格調高いスピーチが続き、さすが

  文学者の会、俳人の集い、と感激することしきり。

   宇多喜代子先生は、「これからの俳句界で一番頼りになる人、一番働いてくれる人」と

  強調しておられた。奥山恵美子市長は、「かつて教育長時代、今をときめく高野ムツオは

  私の部下だったのですよ。」と嬉しそうに笑っていらした。飄々とした茨木和生先生は帽

  子がお似合い。酒井佐忠氏はなかなかに渋い方。普段、誌上や紙上でしかおめにかか

  れない方々の、含蓄あるお話を直に聞く事ができる幸せに、立食の足の痛さも忘れて、

  身をのり出してしまった。

   生前ついにおめにかかる事の無かった佐藤鬼房先生。でも思いがけなく九十を越えら

  れた奥様と、そのお嬢様を遠くから拝察する事ができて、鬼房先生を偲ぶよすがとする。

  何より臈たけて美しいムツオ先生のお嬢様にお会いできた事が嬉しかった。日頃、家庭

  の匂いをさせない硬派の主宰の、ありのままの笑顔がとても優しい。後日の句会で、〈爽

  やかや令嬢と居し祝賀会〉と詠まれたのは、松本ちひろさん。主宰はさかんに照れていら

  したけれど……。最後の万歳三唱は、力強い祝意に満ちていて涙ぐんでしまった。小熊

  座という家族に囲まれ、ムツオ先生という星を戴いて学べる幸せをかみしめながら、後ろ

  髪引かれる思いで帰路につく。後日、虫籠の帯の話をすると、「忙しくて見る暇が無かっ

  た」とそっけないお返事。さもありなん。やはり萬の翅は野の闇に放ってこそ光るものなの

  だと思った。





        声を背負いながら

                              千 倉 由 穂


   高野ムツオ主宰の第六十五回読売文学賞、第六回小野市詩歌文学賞、第四十八回

  蛇笏賞の三賞受賞を祝う会が、仙台ガーデンパレスにて開催された。宇多喜代子氏をは

  じめとする招待者、宮城県俳句協会の方や、小熊座関係者など総勢約160名が集まっ

  た。 ムツオ氏は挨拶にて、自らの俳句との出会いからお話された。そして、俳句の場に

  連れて行ってくれた父親や、その寺の和尚さんなど、「たくさんの亡くなった方から栄養を

  もらって、俳句の道を歩んできた」と言う。

   東日本大震災の句についても言及された。たくさんの方が亡くなった大震災。ムツオ氏

  は「私は俳句を作らなければならないと思った。ここにいる皆さんも同じだと思う」と話す。

  しかし、作っているうちに、どうしてこのような震災の句の俳句が生まれてくるのか、自分

  でも分からなくなったそうだ。そして、「私は亡くなった人から力を貰っているのではないの

  か。その人たちの思いを表現してくれと、生き残った人々は訴えられているのではないの

  か」という思いに至ったのだという。「様々な形で命を失った人たちの声を背負いながら、

  言葉というものは発せられ、そして俳句になるのでは」と。

   さらに、亡くなった人ばかりではなく、阿部みどり女、金子兜太、佐藤鬼房という三人の

  師、さらに同時代を生きている人々から俳句の刺激を受けて、ここまで来たのだと言う。

   佐藤鬼房は「小熊座の集団は皆ライバルである」と言う言葉を残している。皆、俳句の

  ライバル。互いに格闘しながら、ひとりではなく皆で俳句の世界を切磋琢磨して作りあげ

  ていく。「たった十七文字という短い世界だけれど、大きな、しかもさまざまな無限の広が

  りがある」と力強く話された。

   ムツオ主宰の俳句との向き合い方が胸に迫ってきた。私は今春から社会人となり学生

  の頃とは異なる時間が始まった。また、小熊座に同い年の良きライバルもできた。俳句を

  携えながら人生を歩んでいくこと。これからもムツオ主宰を追っていきたいと決意した。

   ムツオ主宰の三賞受賞を祝うと共に、多くの俳人と接することができ、気持ちを新たに

  することができた貴重な会であった。



                




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