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 小熊座・月刊 
  


   鬼房の秀作を読む (38)      2013.vol.29 no.342



         あてもなく雪形の蝶探しに行く          鬼房

                                     枯 峠』(平成十年刊)


  鬼房の気骨溢れる数々の句集を紐解くと、蝶の句が散見される。蝶は、救いのように、

 希望のように、憧れのよう
に顕れるのである。 「雪形の蝶」とはなんと美しい言葉であろう

 か。多くの名句を残し晩年に近い鬼房は、なにを望ん
でいたのであろうか。なにに救いを

 求め、憧れていたので
あろうか。死後の世界を夢見ていたのであろうか。そして、私は、自

 分の「雪形の蝶」を探していることに気が付く。

  私がはじめて佐藤鬼房にお目にかかったのは、二十年ほど前のことであったろうか。痩

 せて実に小柄なお姿を目の
当たりにした。太平洋戦争体験者として、決して、安穏とした道

 を歩んできてはいないことを、その表情と皺は物
語っていた。何故か、恥じ入るような気持

 ちに私はなっ
た、仙台において、現代俳句協会青年部の東北大会シンポジウムが開催さ

 れたのである。私はお盆のお里帰りの青森
から、車を運転して参加していたため、車で帰

 宅しなけれ
ばならなかった。

  東北高速自動車道を、雷雲と共に南下したのである。まるで「十戒」の一シーンのように

 眼前、一面黒く覆われ
た天地を真二つに引き裂いて電光が降り、凄まじい雷鳴が轟いた。

 空の数か所が雷光で裂け割れた。この状態は首
都圏に入るまで続いた。そして家に着くこ

 ろには暗雲の空
は、とっぷりと夜の帳に覆われていたのである。

  私が佐藤鬼房を思う時、必ずこの光景と一体となるのである。

                                          (「豈」高橋比呂子)



  鬼房先生があの世へと旅立たれた2002年1月19日
も雪が降っていたように思う。その

 白い雪の中、冬にも咲
く桜の花が静かに咲いていた。

  ローマには、「雪のサンタマリア」という物語がある。ある貴族がマリア様のために聖堂を

 建てようと思うのだが、
どこに建てたらよいかわからず悩んでいると夏なのに急に雪が降っ

 てきて、雪が積もり、その場所に、聖堂を作った。
(雪のサンタマリアの聖堂)。長崎にも、

 領主に気にいら
れたマリアという女性が、自らは天につかえる身であることの証明として、

 六月なのに雪が降ってくるという物語が
あるそうだ。雪はマリア様の清らかさの象徴でもあ

 る。


 ―あの日から降りやまぬ春の雪

   あの日から消え去らぬ白き悲しみ

   あの日から降り止まぬ春の雪

   あの日から積もりゆく白き悲しみ―

 東日本大震災復興祈念公演(仙台・大邱国際交流公演)混成合唱組曲「希望の灯火」の

 一節である。2011年の春
の雪は、魂がちぎれたように痛々しく胸に刺さった。

  ギリシャ語の「プシケ」には、蝶々という意味と心という意味があり、夕暮に蝶々がマリア

 の顔にとまり、口の中
にはいって懐妊したという伝説もある。魂の象徴でもある、雪型の蝶

 を、鬼房先生は今も探し続けていらっしゃる
だろうか。たくさんのさまよえる魂の行方を見

 守り続けておられるだろうか。

                                              (水月 りの)





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