２０１２／９　　№３２８　 　当月佳作抄

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ムツオ推薦

　　　　海嶺をみたこともなしあめのうお　　　　　　　　　佐々木とみ子

　　　　揚羽蝶緑青を生む齢なり 　　　　　　　　　　　　　古山のぼる

　　　　動悸あり蛇を引きずり居る程の 　　　　　　　　　平松彌榮子

　　　　ががんぼの顫へ伝へて天の川 　　　　　　　　　 増田　陽一

　　　　作文集つなみ読んだか浮いて来い 　　　　　　　さがあとり

　　　　抗へるひかりとなりて蛇泳ぐ 　　　　　　　　　　　鯉沼　桂子

　　　　本当は怖いお話ばかりの夏 　　　　　　　　　　　森　　黄耿

　　　　ヒーローに正義なくなり夏の草 　　　　　　　　　　松岡　百恵

　　　　悪妻といふも妻なり雲の峰 　　　　　　　　　　　　遅沢いづみ

　　　　広辞苑ほどに居座る蟇 　　　　　　　　　　　　　　田中　麻衣

　　　　眼光の光の残りし蛇の衣 　　　　　　　　　　　　　関根　かな

　　　　影捨てて飛ぶ鳥のあり夏蓬 　　　　　　　　　　　 渡辺　智賀

　　　　小蠅にも目あり口あり魂もある　　　　　　　　　　 橘　　澪子

　　　　老いてなほ未知の老いあり冷奴 　　　　　　　　　山田　桃晃

　　　　お盆来る花屋の裏の花の屑 　　　　　　　　　　　宇津志勇三

　　　　合歓の花十月十日の夢のごと 　　　　　　　　　　大西　　陽

　　　　人影の染みあり廃鉱の大暑 　　　　　　　　　　　山本美星子

　　　　菓子箱の底にもありぬ天の川 　　　　　　　　　　千倉　由穂

　　　　父直立母棒立ちの敗戦忌 　　　　　　　　　　　　渡邊　氣帝

　　　　天上はおだやかなるや竹降り来 　　　　　　　　 竹内　葉子

　　　　亡き友の手紙のような蕎麦の花 　　　　　　　　 上田由美子

　　　　遠祖を辿れば山椒魚が出る 　　　　　　　　　　　馬場　民代

　　　　来るべきものきたりて名づく東北忌 　　　　　　　梅津　昌広