小 熊 座 2012/4  №323 特別作品
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      2012/4  №323  特別作品


        冬の鯉         山野井 朝 香


    沈黙はことばの流れ冬欅

    逆光にいきなり入りぬ冬の蝶

    待つという心の行方花八つ手

    仮の世はまず梟を眠らせて

    勾玉の中だんだんに冬野かな

    菜をさっとゆでてレノンの忌の外に

    白湯飲みて言葉をつなぐシクラメン

    またの世も兄のマントにある手紙

    夕暮れの雪の匂いを左折する

    二度寝せし夢に広がる冬菜畑

    黄昏を大事に使う花八つ手

    降る雪を見るに鎖骨を意識せり

    風花や返信メールは諾とのみ

    向きを変え身の芯に添う冬の鯉

    現世とはまんさくの咲き終わるまで

    消息は下絵のような石蕗の花

    雛壇のうしろは雑木山かとも

    金縷梅の咲いて日暮れは水平に

    臘梅に放心という時間かな

    春蘭の午後のひかりを保護色に



        夢から覚めぬ夢     関 根 か な


    冬紅葉遠くに鯨幕の家

    海見ゆる駅舎残りて冬に入る

    星摑むことはできない悴めり

    裸木が一緒にゐてと呟いた

    松島の樹液の凍つる匂ひあり

    松島の海に光源空に凪

    黙禱の姿に冬日集まり来

    亡き人の言葉の満つる冬の雲

    枯蟷螂言葉を選んでゐるやうな

    綿虫の空に留まるみちのおく

    待つといふことの光や冬の虹

    ただひとつの肉塊吾もむささびも

    冬の蠅なれども空の遠くまで

    黙禱のときが春夏秋冬も

    生きてゐることを許され赤のまま

    みちのくの夕空鯨横たはり

    水初めて氷る夢から覚めぬ夢

    初日さす飢えぬ鴉のゐる国に

    日めくりの薄きいちまい雪の晴れ

    雪原に来て海原を思ふてる



 
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