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 小熊座・月刊 
  


   鬼房の秀作を読む (18)      2012.vol.28 no.322



         海嶺はわが栖なり霜の聲              鬼房

                                       『霜の声』(平成七年刊)


  この句の載っている第十一句集『霜の声』は鬼房先生(以下敬称略)七十六歳のもの。

 その「あとがき」に鬼房は「こ
の句集に限って言えば、私は私なりの肉声をさらけ出した

 過ぎない」と書いている。そしてこの句の前後にある次
のような句を読むとそれが裏付けら

 れる。

   落ちさうな飛びざまの鴨俺もまた

   老骨の胸にひろがる霜の照り

   葱囲ふ妻の(かたへ)に居りしのみ

  「海嶺」の句、静まりかえった漆黒の闇の中でしんしんと冷える霜の声を聞いていると海

 底の山脈に居るようだと
言う。これも肉声。そこにある深い、広い、そして動きのない孤独

 の世界が、作者晩年の心境そのものだったのでは
ないか。そう受けとめる。と同時に、陸

 の山脈より高いも
のがあるという海底山脈を思ったところに、作者の隠れた誇りを感じとる

 のである。

  「海嶺(かいれい)」という言葉、この句に出会うまで知らなかった。それだけに新鮮だが、

 「霜の声」との取り合
わせでこの句は「海嶺」のように屹立したと思う。

                                          (中村 孝史)



  私は現主宰高野ムツオ先生になってから小熊座に入会し
たので、佐藤鬼房師に直接に

 師事をいたした事はないが、
一度だけ、お目にかかった事がある。それは、鬼房師が平

 十一年九月五日、栃木県宇都宮市の平畑静塔記念俳句大
会に出席され、栃木在住の小

 熊座の面々も、来て居られて、
たまたま出席した私もお会いした記憶がある。『佐藤鬼房

 全句集』に高野ムツオ主宰の編纂された「佐藤鬼房年譜」
にも鬼房師は栃木在住の連衆

 中井洋子等に会うと記されて
いる。

  鬼房師は平畑静塔記念俳句大会に講演をされ、その迫力に圧倒されたものである。そ

 れもそのはず、自らを蝦夷の
雄阿弖流為の裔たるを誇りと生き、蛇笏賞、詩歌文学館賞

 に輝き、西東三鬼門の異才と評されている。この所以を持っ
ても押して知るべしである。

   海嶺はわが栖なり霜の聲          鬼房

  海嶺に実際には人は住めないが、生物の発生は「海」とされている。 「海嶺はわが栖な

 り」は置かれている環境の
厳しさを比喩しているように思われる。その昔、陸奥の阿弖流

 為の悲惨な歴史が思い浮かぶ。そして、霜夜の静寂の
中に阿弖流為の声なき声が聞こえ

 てくる。

                                          (髙橋 森衛)



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