小 熊 座 2011/11  №318 特別作品
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      2011/11  №318  特別作品


        天晴れ        越 髙 飛驒男


    青柿に乳房尖ってきたりけり

    大怪異原子炉に()き大雷雨

    蜥蜴長けよ物を食わねば死ぬまでぞ

    蟬蜻蛉八景島に生れ死ぬ

    二階まで来たる守宮の遂に来ず

    渡海せる幾万の魂天の川

    蟻蟻蟻幾千万の瓦礫行く

    おしまいの世か流離(さすら)いのかたつむり

    ついてきた影を片影に入れる

    ヒヨドリのお喋り無法とは言えぬ

    恐竜の骨格の下汗冷ゆる

    幽霊を無季というなり吾は否

    老人の後期に属し夏痩せず

    低地よりタモリ窺う鰯雲

    真実の声遙かなり鰯雲

    二階に妻働き蜂のあと追えば

    ぶらんこで秋風を待つまだこない

    水浸しまた水浸し厄日とは

    秋風がきて懐の軽いこと

    天晴れな秋天となり国飢える



        囀りの木       佐 藤 成 之



    不定愁訴すみれを着地点として

    陽炎という面影を買いに行く

    桜の芽百粒飲めば生きられる

    春の虹同心円に死者の顔

    星空のスイッチ探す四月尽

    夏草の一生相対性理論

    傷口に西日の沁みる発電所

    噴水が夜の出発点だった

    終戦日青空の端は水浸し

    カンナ燃ゆ非常ベル鳴り響くごと

    わたくしの色がどこにもない九月

    眼の奥で育つ不安や鰯雲

    白菊の汚れるほどにいとおしむ

    洗顔をすれば消え去る冬の街

    目を覚ますように冬木が歩き出す

    人肌になるまで人形抱く寒さ

    童貞喪失毛布はもう要らぬ

    白菜は命の重さ未完の死

    葉牡丹のうしろの席が空いている

    囀りの木まで友だちでいよう



        炎天水族館      俘   夷 蘭



    炎天や水族館に並ぶ列

    プランクトン魚類と水の宇宙かな

    食べてなお食べられぬよう鰯群

    黒鮪猛スピードや皆懺悔

    口も手も胃もあるサンゴ滅びあり

    こぶ鯛の性転換や顎強し

    口中で卵育てる魚もいる

    竜の落し子虹のようなる卵生む

    暑苦し高足蟹の動かざる

    水母泳ぐ幻想愛すこゝ高層

    マンボウはのんびり半身神経症

    アマゾンのピラルクの鱗古代魚

    鱏が飛ぶ不安の詩人海の空

    浮びつゝ毛皮の手入れラッコかな

    爬虫類図鑑と比べ減る話

    アザラシとアシカ大食餌苦労

    鮫と遊ぶ人魚のようにダイバー入る

    裏見たし繁殖病院人の汗

    ペンギンに観察されてかき氷

    象亀や浦島翁の一時間



        きつねのかみそり   永 野 シ ン


    念願の山里暮らし葛月夜

    仙翁や鋼のような父の背ナ

    行合の空は気まぐれ赤とんぼ

    下駄履きて列の中なり流燈会

    逃げ水の先も逃げ水観世音

    草木瓜の実がでこぼこに暮るるなり

    鎮魂を形にすれば烏瓜

    褒められも頼まれもせぬ草を引く

    卒塔婆の影の林立晩夏光

    字余りのように揺るるや城の萩

    水甕の水は空っぽ石榴熟れ

    きつねのかみそり咲きて私を無口にす

    吾亦紅スープの出汁となるもよし

    寝転べば床ひやひやと鬼蜻蜓

    山椒魚の恋路は遥か堰いくつ

    かまきりの眼空色母を恋う

    介護車を迎える夕べつくつくし

    卵割る黄身が一つの秋思かな

    失って見えてくるもの鰯雲

    名を呼べば笑う幼や夏の月

          

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