小 熊 座 2009年3月 特別作品
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     2009年3月 特別作品



  硝子のなか   佐々木 とみ子


 雪晴れて毛虫も道へ出てきたり

 菱形の田のなつかしき冬景色

 落葉松はさらばう木なり冬の雨
       
 怒るとき鵟(のすり)の喉のうつくしき

 まっすぐなかもしかの眼のなかにいる

 乳房もこんと鳴くべし狐森

 寝棺にはしまふくろうの羽少し




  冬  杉    高 橋 森 衛

 沈黙がいくさのように寒牡丹

 人声に青の羽ばたく麦の列

 胎内に遊ぶが如く柚子湯かな

 大空に透ける道あり雁来柾

 目溜りの言葉の沈む帰り花

 ビオロンの風になりたる革の花

 知らぬ間に派閥のできる日向ぼこ

 

  鰤起し    半 澤 房 枝



 寒夕焼朱を曳き帰る塒鳥

 杜氏には杜氏の言葉寒造

 絡むものからまるものの枯れ急ぐ

 冬夕焼影絵のごとき蔵王立つ

 牡丹雪降っては消ゆる養魚田に

 垂直の冬巌仰ぐ石切場

 白鳥は王者数百の鴨が蹤く

 


  毀れゆく    福 原 栄 子


 毀れゆく友を真近かに春の闇
                          
 病める世にぬくき介護の楽々楽(ららら)

 脳内の萎縮を止めて初霞

 三寒はわが頭四温は縁の下

 またの世は飛んでとんで春告げ

 身の丈の光掴めと春の虹

 錆びていく私もわたし歯朶は歯朶
 



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