小 熊 座 2008年11月 特別作品
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       2008年11月 特別作品



  
樟脳舟    越 高 飛輝男



 仮面高血圧症に薪能の誘ひ

 亀鳴くをそろそろ止めやうではないか

 形成外科に七月の首吊られ

 椅羅星の俳壇の人原爆忌

 グラビアに賞を頒けあひ蛇笏の日








   子 規    田 中 哲 也



 子規留守の鶏頭は立ち糸瓜垂れ

 残る蝉水泡は淵に吹溜まり

 渡し場に乾く靴跡ゐのこづち

 籾殻を焼く臭ひせり渡し舟

 逆光のビルが迫りぬ籾延

 天高し橋を嗅ぎつつ犬通る






   満 月    郡山 やゑ子



 水晶体歪み満月二、三枚

 鶏頭花傷口徐々に広がりぬ

 五指固く開いてゆきぬ朝の虫

 赤とんぼひとり遊びが得意です

 泣きさうなそらをあやせし花木槿

 朝顔のきのふけふ明日数へけり







  上野公園点景     増 田 陽一


   西洋美術館彫刻四句
 首傾ぐ鴉や地獄の門灼けて

 向日葵や天心を射るヘラクレス

 彫刻の頬鋭角に秋斜光

 さんざしに蛾の食痕やアダムとイヴ

     芸術大学
 全学の楽器共鳴桐の花





  唐辛子    山 崎 正 子


 晩年はなし矍鑠と鮑海女

 蛍龍吊りし一夜を深眠る

 疾く風の来よ手のひらの兜虫

 新涼の寺領にのこる舟繋ぎ

 影すらも持たぬとうすみ蜻蛉かな

 




  いわし雲    佐 竹 雅 士


 やまなみを駆け降りてくるいなぴかり

 まろやかな赤子のくさめ菊日和

 月光の透かし見ている青葡萄

 癒えやらぬ咳ひとつして臥待月

 雷はしる闇を見上げて猫猛る







  
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