著者略歴

1950年 宮城県塩竈市生まれ

小熊座同人 現代俳句協会会員 宮城県芸術協会員

第17回宮城県俳句賞凖賞/第1回小熊座賞/平成9年度宮城県芸術選奨新人賞/

第3回中新田俳句大賞スウェーデン賞

句集『渡辺誠一郎句集』『潜水艦』『余白の轍』

 

 

目 次

<晦> 〇〇七−〇五一

<朔> 〇五三−〇九七

<弦> 〇九九−一三七

<望> 一三九−一七七

  あとがき

 


自選30句

 

晩春の古書店ノアの方舟なり

わが魂は複製にして春の雷

節分の豆が山河を零れ落つ

鳥獣にくびれありけり春の風

鬼房の鎖骨に落ちる桜かな

美しく舌のふれ合う実朝忌

沈むものみな美しき夏の宵

夕立や廊下あまりに長すぎる

噴水に柩の浮かぶ日暮れかな

なめくじり旅人として出て行けり

一卵性双生児の形代なりき

人死んで絵馬残りおる夕かなかな

七月の内科医水の動きせり

最果ての蟹の背後にまわるなり

生き方を問われし夏の廊下かな

鬼房六林男杉鉄砲をひりひりす

鑿痕よりの秋冷奥羽の仏たち

鶏頭の幾つ数えてむらさきに

手の平に手の平すべる野分かな

すすきからすすきへ父を送り出す

ぬばたまの昭和の夢や鶸渡る

湯タンポの波打つ影をみておりぬ

太陽に真闇ありけり花八手

みちのくのいつも遠くに桐の花

やませ来る空に枕木あるような

太陽を濡らして来る鯨かな

少しだけ白鳥に似る喉仏

冬空の廊下は走らないで下さいね

大寒の何を担いできたのかと

降る雪に天神地祇と応えけり

 

 

あとがき

本集には、『余白の轍』以後の作品三〇二句を収めた。七年の過ぎさった時空

のなかで、わが心象がかろうじて形になったものだ。この間、父を失った後、

姉を不幸にした。言葉が揺れ動く心象に追いつかず、まとまりのつかない日々

が多かった。そして師佐藤鬼房を失った。失ったものと残ったものが形になり

はじめたところではじめてこの句集を編むことができた。わがままな句が少な

かったのが心残りだ。敬愛する写真家平間至氏には大変お世話になった。写真

と俳句が両立していればうれしい。装幀を引き受けていただいた長尾敦子氏に

感謝します。

                       二〇〇四年十月 渡辺誠一郎

 

 

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句集 数えてむらさきに  渡辺誠一郎著     

    銀蛾舎刊 
       
      2004113日発行 定価2,300